俗物中毒




「ルーク」
「…ル、カ?」
 黒い目隠しをされた青年は、響いた声に反応した。そして、ゆっくりと名前を紡ぐ。
その掠れた声で呼ばれて、彼は微笑んだ。
「うん、俺。何か、変わったことはあった?」
「…別に、あるわけねえじゃん」
 ルカの問いに、ルークはふてくされたように答えた。今、ルークは自分が何処にいる
のかは知らない。自身の視界は黒い布で覆われていて、何も見えない。仮に何か見えて
いたとしても、ルークは今までも軟禁されていたから、此処が何処かなんて分からない
だろう。(ルークの世界はあんまりに狭い)とりあえず視界が奪われている今、ルーク
にとって確かなのは、ほとんど目の変わりになってしまった嗅覚と聴覚だった。けれど
それだって他の人間に比べれば、明らかに比較対象と情報が少ない。ルークがこの状態
で得られる情報なんて、本当に微々たるものだった。

 その微々たるものとして分かっているのは、ここにはルーク以外に誰もいないこと。
また、この場所にやってくるのは、ルカだけということ。そしている場所は恐らく、暗
くて冷たい、水気を含んだ場所であるということ。それらだけだった。特定する材料と
しては、心許ない。
「まあ、そーだな。…怖い夢は、見ない?」
「…っ!!」
 ルークは吐き捨てた後にルカが言えば、何かのスイッチが入ったかのように、ルーク
は震えだした。ただでさえ白い顔を一層青白くして。歯の根から足まで、何もかも震え
させる。
「せん、せっ…みん…おれが、…ころ」
「…聞かなくても良い。見なくても良い」
 そんなルークの耳を、ルカは塞いだ。そっと、そっと。


「…次にお前が聞くのは、見るのは、ちゃんと」
 黒い布には、じんわりと温い液体が滲んでいた。










「…ルーク、大丈夫!?」
 ティアの、絹を切り裂いたような声が響く。それが響き渡ると同時に、モンスターの
血飛沫が高く舞い上がった。その辺に散らばっている血の匂いが、一層強くなる。
「……」
「ルーク、早く見せて!」
 断末魔が叫び、その持ち主は地面に倒れ込んだ。それを確認すると、ルークは剣を鞘
に収めた。背中からは血が溢れていて、その爪痕は存外深い。

 それを見ると、治癒術を使えるティアとナタリアが慌ててルークに駆け寄った。そん
な二人を見て、困ったようにルークは笑う。
「別に、平気だっつーの」
「…そんなこといいましても…」
 だろう? だなんて言い、ルークは同意を求める。しかし、ナタリアは困ったように
視線を泳がせた。ティアは何も言わずに、どんどんルークとの距離を詰める。
「ティア?」
「はやく!」
 言うなり、ティアはルークの上着をはぎ取った。多少土埃を被ってはいるものの、真
っ白なそれには血が滲んでいた。モンスターのものより、ルークの傷口から溢れたもの
の方が多いかも知れない。それを一瞥して、ティアは顔を顰め、その表情のまま、ティ
アはルークを無理矢理座らせた。
「早く、そっちも脱いで。治療するわ」
「いや、別に」
「早く!!」
 なかなか脱ごうとしないルークにしびれを切らしたのか、ティアはほとんど布きれに
なっているそれをはぎとった。そして、傷口から溢れている血を拭こうとして。

 止まった。




「ティア?」
 小首をかしげて、不思議そうにルークは問う。けれど、ティアはそんなルークから後
ずさる。白い顔からは、血の気が引いていた。


「…あなた、誰?」
「何を言っているんですか? ティア」
 ティアのその小さなセリフを聞いたらしいナタリアは、訝しんで聞いた。ティアがし
なかった治癒術を施しながら。
「はい、もう大丈夫です…」
「ナタリア離れて!!」
 

 ティアがそう叫ぶと同時に、ナタリアの金糸が一房宙を舞った。
「え」

「あーあ、ばれちゃったか。しかたねーか。そういえばあいつ、背中にでっけー傷作っ
てたし。綺麗な肌なのにもったいねえ」
 気怠そうに、彼は髪を掻き上げる。それはもう皆の知っているルークではなかった。
傲慢な彼とも、今まで笑っていた彼とも違う。それを察して、皆後ずさった。





「さあ、俺は誰でしょう?」



 美しく微笑む顔。それは皆が愛したもののはずなのに、怖くて怖くて仕方がなかった。













「…なあ、ルーク見て」
「…何を」
  その日本当に久しぶりに、ルークの布に覆われた視界に僅かな光が差し込んだ。痛み
が伴う。湿っていない美しい空気が体に触れる。ルークの手を握るルカの声ははずんで
いた。

「はずすから」
  耳元で囁き、笑う。
 目隠しが音を立ててルークの肌を滑った。


「これが、お前のための世界」




 きっとそれは、

「なあ、きれい?」



(どこまでもおろかでじゅんすいでこわれきっているぼくときみじゃあ、つくれるせかいなんて)




うつくしく、こわれている。







 

 








 これにておしまいです。
 こんな話ばかりですがだいすきなんですこういう雰囲気。
 一応、救いのある話を書こうとしているはずなのに何このバッドエンド?
 ルートを間違えたRPGのようで申し訳ないです。


 せかいはみなさまのご想像に、おまかせします。


 …これ年齢制限かけようか、本当に迷いました。
 いや、雰囲気とか…色々。
 もう当サイトは年齢制限を設けた方がいい気がしてなりません。絶対教育に悪いサイ
トですよね。いや本当…。今さら過ぎますか。