泪夜空
 
 いっそのこと、泣いてしまえばいいのだろうけど。


 たまに自分の心が締め上げられて、どうすればいいかわからなくなる。
 見えない何かに襲われて、そのまま暗闇に連れて行かれそうな。
 ―そんな、どうしようもない恐怖。
 そして、孤独感。

 誰にも話せそうにない。
 誰かがわかってくれることは、期待していないけれど。
 
 ―アイツにも…言えそうにないね。
 アイツの隣には彼女がいて、いつも笑っている。
 そして、何よりアイツが一番に考えているのは、他の誰でもない彼女のことなんだから。
 
 入り込めるすきなんて、まるでない。
 入り込む気もないのだけど。

 あの娘といるときのアイツは、幸せそうだから。
 だから…壊せないよ。
 
 考えを巡らせれば、きっとこの思いも、アイツから来ているのだろう。壊せないけど、辛い。
 少しでもいいから、特別でありたい。
 けれど、それは無理な話。
 そう考えると、また、どこか暗闇に連れて行かれそうになる。足を掴まれて、ズルズルとあなぐらに引き込まれそうな。

 空を見上げる。
 こぼれ落ちそうなほどの月明かりと、手を伸ばせばつかめそうな星。
 ―本当は、アイツと見たくて、誘おうとしたけど。

 迷惑にしかならない。
 そう、分かっているから。
 また、溜息がこぼれちゃったじゃないか。
 馬鹿みたいだね、あたし。

「おう、しいなじゃねーか。」
「!?」

 見覚えのある赤髪。
 それは、月明かりに照らされていて、素直に綺麗だと思った。
 
「こんなとこでなにしてんだあ?」
「…空。」
「ん?」
「綺麗だと…思ってさ。」

 その気持ちは本当だったけど、半分は嘘だった。
 ―一緒に眺めたかった人がいた。

「お前…もしかしてロイドのこと考えてたの?」
 自分の顔がほてり、醜く歪んだのが分かった。

「―!!」
 気がつけばアイツを殴りそうで。でも、それは出来なかった。 
 そんなの、ただの八つ当たりで。必死で押さえて握った手のひらに、爪がくいこんだ。

「アンタこういうときだけ頭はたらくんだねえ…。」
 捨てぜりふのような皮肉。
 自分の心がどんどん汚くなっていく気がした。

「いいよね、アンタはもてて。」
「しい…」
「わかるかい?どうしようも出来ないつらさ。」
「おい…。」
「好きってことも素直に言えないつらさが…」
「しいな!!」

 遮られた。
 視線をアイツに向けると、アイツの顔は歪んでいた。
 つらそうな、苦しいような顔。

―ああ、あたしは。

「非道いこと、言ったね。」

「ごめん…。」
 それしか、言えなかった。
 
「俺様だって、手にはいんないものぐらいある…。」
 そういって、ゼロスは手すりに体を預けて、空を見上げていた。
 寂しそうな、顔をしていた。

「ごめんね。アンタのこと…考えられなくて。」
「いいさ。俺様、よくそう見られるし。」

「それより、お前のほうこそ大丈夫なのかよ。」

―本当は、大丈夫なんかじゃない。

「―いっそのこと、泣いてしまえばいいんだろうけどね。」
 また、溜息が零れた。泣けるはず、ない。

「泣いたらいいじゃん。」
 アイツはあたしの頭を引き寄せた。大きい手だった。

 なんかいきなり、涙腺がよわくなった気がして、ボロボロ泣いていた。
 その間中、アイツは何も言わないで頭や背中を撫でて居てくれた。
 それに安心して、嬉しくて、また泣いた。

 こんなあたしでも、傍にいてくれることが、たまらなく嬉しかった。
 どうしようもなく安心して、この時が終わらないことを願った。







 しいなは、さんざん泣いたら疲れたのか、いつの間にか俺様に体を預けて寝ていた。
 仕方ないから、しいなの細い体を持ち上げ、彼女の部屋まで連れて行ってやった。
―ああ、俺様って親切。
 でも、その気持ちをも否定した。
 コイツだからなんだけども。

 ベッドに寝かせ、布団をかけてやる。
 柔らかな髪を撫でる。自分とは違う、黒髪。

―いつからだろう。彼女に惹かれたのは。
 いつからだろう。彼女と傍にいたいと願ったのは。
 いつからだろう。彼女に自分だけを見ていて欲しいと願ったのは。

 でも、それは叶わないだろう。
 彼女の気持ちはアイツのものになってて、そのアイツの気持ちはあの娘のものになっている。
 それに、彼女も気付いている。

 でも、思い続けている。
 彼女も、自分も。

 愚かだとわかってはいても。
 報われないとは分かっていても。
 叶わないとはわかりすぎているけど。

 それでも、愛して抱きしめたいと願う。
 つらくても、痛くても。

 望みはないと分かっていても願う。
 

―どうか、彼女が傍にいてくれるように。
 いつまでも、その笑顔を見ていられるように。



 寝ていた彼女の体を起こし、一瞬だけど、強く抱きしめた。



後書き
 ゼロ→しい?
 あはは…こんなんばっか書きすぎだ…。
 ごごご、ごめんなさい!!