終焉は安息 生まれたときのことなんて、当然覚えていなかった。それが普通だと、ルークは知っ ていた。けれど、彼の記憶の恐らく一番はじめには、何時だって一つの色と温もりがあ った。 それが、ルークの知っているはじめ。 ルークの、本当に確かな記憶の中で、一番最初に彼を抱きしめたのは師だった。それ が何ともくすぐったいような気持ち悪いような、妙な感覚だったことをルークは良く覚 えている。師の瞳の色が、やけに寂しい色だった。 ルークの世界が変わったのは、そうそう遅くはなかった。世界を変えたのは、一番は じめに抱きしめた師だった。 「…ねえせんせい」 「どうした、ルーク?」 「…おれ、もっともっとずっとまえから、きっと、せんせいのことしってる」 妙な確信があった。寂しい色の瞳も、自分よりずっと高い体温も、きっともっと前か ら知っているという、確信。ルークはそのころ世界の事なんてはじっこすら知らなかっ たけれど、そのことだけは自信を持って言えた。 そう言えば、師は困ったように笑って見せた。なんとなくその笑い方は変な感じがす ると、ぼんやりルークは思った。 「…お前は、私が作ったからな。お前は、レプリカなんだ」 観念したように、ゆっくりと師は告げた。今まで聞いたことがないくらい穏やかな口 調で、ルークは頷くことしかできない。 「せんせいが、おれのことつくってくれたの?」 ゆっくりゆっくりと師の言葉を飲み込んで問えば、ルークに師は頷いた。それに、ル ークは笑う。「つくる」なんて台詞、よく分からなかったけれど、よく使用人がいじっ ている音機関のようなものなのだろう。 「じゃあおれは、せんせいのためにうまれたんだね」 「…ああ、そうだな」 「じゃあおれは、せんせいのものだ」 彼は、決めた。 十五になる前、ふいにルークは師に問うた。 「なあ師匠、師匠が俺を作ってまで、したかったことって何ですか?」 それはルークがずっと知りたかったことだった。ルークがあのとき、自分がものだと 認めたときから。自身が、師の道具だと分かった頃から。 「…こんな理由では、駄目か?」 「…ヴァン師匠が望むなら、俺はどこまでも」 「だって、ヴァン師匠が俺を作ったんだから」 「…師匠は、お前らなんかに殺させない!!」 返り血かも、自身の血かも分からないほど血まみれになったルークが、あえぎあえぎ そう言った。すでに右腕には深い刀傷があって、そこから絶え間なく血が溢れている。 利き腕こそ無事だがそちらもボロボロだ。彼の後ろには、同じく血まみれな彼の師の姿 がある。 「…ルーク! どうしてお前は、そこまで…!!」 今までずっと、視線を逸らしていたガイが叫ぶ。それは悲痛で、今のガイに出来る精 一杯の叫びだったけれど、そんなガイをルークは睨みつけた。 「ヴァン師匠が望む世界だから、俺は師匠の道具だから…。師匠のいない世界なんて、 俺の生きていていい世界じゃないから!!」 言うなり、ルークは地面を蹴った。蹴った、とは言っても彼の足ももうボロボロで、 それを正しくは実行できなかった。 「…ルー…ク」 「せんせい、ごめんなさい…ごめんなさい」 あなたのどうぐなのに、あなたのどうぐなのに。 どうしておれは、あなたのやくに。 「…さようなら。だいすきなせんせい」 おれ、つぎがあるのなら、やっぱりせんせいのそばがいい。 どうぐだっていいや。つかいすてのこまでもかまわない。 ただあなたのそばにいたい。あなたをあいしたい。 それだけなんです。 (せんせいののぞむせかいが、つぎこそありますように) これでヴァン純粋黒ルク三部作はおしまいです。 ルークとヴァン師匠が幸せになれる世界なら良かったのに。