だって、これがヴァン師匠の望んだ世界なら。



                                       愛は狂乱

 アグゼリュスが崩落していく。何とも言えない恐ろしい空気と、腐乱した臭気に皆眉
を顰めた。よくよく見れば、その中心にいるのは。

「…ルーク?」
 朱色だった長い髪が、今は血がべっとりと張り付いてまだらになっている。むしろ、
髪だけでなく全身が血まみれだった。臭気と、狂乱の空気を全身に貼り付けている。
 ルークはどこか恍惚とした表情で、崩落していく様を見つめていた。瞳は子供がおも
ちゃか何かを見つめるように、キラキラと輝いている。

「…みんな、アグゼリュスの人たち」
 恐る恐る、アニスが口を開いた。大人も子供も関係ない。皆殺しという表現がピッタ
リだった。もしかろうじて息があったとしても、このまま崩落していくのだから同じこ
とだ。すぐに回りと同じく、骸となるだろう。 
 アニスのその台詞を聞いた途端、沸騰しそうな感情が皆を襲った。怒りなんて生やさ
しい感情ではすまされない、憤怒だった。
 ここにいる人々は、皆、救われるべきだったというのに!



「…お前らか」
 ふいに、ルークは振り向いた。何人分かも分からない返り血が、やはりべっとりと顔
に張り付いている。祭か何かのときにする化粧のようで、仮面のようでもあった。
 それを貼り付けて、ルークは。

「これが、ヴァン師匠の世界。ヴァン師匠のための、世界」
無邪気に笑った。それは悪意なんて欠片も感じられない、本当に本当に穏やかで幸せそ
うな子供の笑みだった。返り血まみれの顔は、酷く幸せそうに歪んでいる。どこか褒め
て貰うことを望んでいるような表情と雰囲気。
 それに、何故か圧倒されてしまった。毒素を、変に抜かれてしまった。

「俺は劣化品だけれど、これくらいなら出来る。ヴァン師匠が望むから、俺は何にだっ
てなってやるんだ。師匠が笑ってくれるから」

「あいしてるから」


 ルークの紡ぐ愛は、拙かった。
 あんまりにも幼稚で、皆から見れば間違い以外の何者でもなかった。それなのに、何
も言えなくなってしまったのは。


「何とでも言ってみろ。構わない」




 咎めるには、あまりにも綺麗すぎる瞳だった。

 血まみれの下にあるのは、あんまり拙い愛だった。











 ルークはヴァン師匠がすきですきでたまらないくらいがいいのだと思います。