俺の世界はあんまりに狭くてちっぽけで閉鎖的で。
 記憶のない人間でなかったら、「気が狂う」状況だったらしい。

 でも、おれはへいき。



 だって、せんせいがいてくれるから。




                              恋は享楽



「ヴァンせんせー、くすぐったいって」
 ヴァン師匠の唇が、何度も何度の俺の顔に降ってくる。「キス」っていうのは、好意
を表すらしい。それは嬉しいけど、少しくすぐったい。
「嫌か?」
 ヴァン師匠の目が、俺を顔を映している。なんか、嬉しい。
「いやなわけねーじゃん! 俺は師匠が好きなんだからさ!」
 只くすぐったいだけで、うざったくもないし、むかつくわけじゃない。だから慌てて
師匠に返した。師匠に嫌われたら、俺は。
「そうか」
 言えば、師匠はクスクス笑った。…何か俺、馬鹿にされてんのかな。でもいいや、先
生が笑ってる顔は好きだし。ヴァン師匠にだったら何言われようが構わない。ヴァン師
匠の為だったら何にでもなる。

 だって、師匠が俺を。


「お前の髪は綺麗だな」
 俺の、随分長くなった髪を見て師匠が言う。一房手にとって口づけられた。
「俺はヴァン師匠の髪の方がいい」
「何故?」
 聞きながら、師匠は俺の髪を撫でる。気持ち良い。

「だって、俺の髪、色素抜けてるだろ? 劣化してるから」
 ヴァン師匠が撫でていない方の髪をつまんで、師匠に見せる。毛先の方は痛んでいる
訳じゃないのに、色素が抜けて黄色っぽい。劣化の証だ。
 そう言ったら、ヴァン師匠は
「お前は、ちゃんとしたいいこだ」
そう言って笑ってくれた。ヴァン師匠が笑ってくれるのは嬉しいけど、この笑顔はあん
まり好きじゃねーかも。何か、悲しそうなんだ。


「俺、ヴァン師匠のためならなんでもするから!」
 何か変な感じがするのが嫌で、ヴァン師匠に飛び付いていった。そんな顔しないでく
れよ。俺がいるから。 
「ヴァン師匠が、俺を作ってくれたんだから」

 触れたヴァン師匠の唇は温かい。俺のはきっと、冷たい。

 偽物でも良いんだ。ヴァン師匠の傍にいれることが、俺の幸せなんだから。


「せんせいのやくにたてるなら、おれ、れぷりかだってなんでもいい」

 だから、おれをみて。


 あなたがのぞむなら、なんだってこわしてあげるから。




 ヴァン師匠のなみだがあたたかい。

 それだけが、おれの世界のすべて。













 純粋黒ルクとヴァン師匠の物語です。
 ルークはヴァン師匠に話されて、自分がレプリカだということも捨て駒だと言うこと
も知っています。それでも、消えるはずがない。