壊される前に包み込む

 彼らの知っている『ルーク』とは違う『ルーク』だと言い張る青年は、ずいぶん印象
が違う。口は同じくよろしくないが、「ありがとう」や「ごめん」などあの彼なら絶対
言わないような台詞もさも当たり前に言うし、素直な印象を受ける。
 元々良かった剣の腕も、粗さが見あたらないほどだ。
 皆、好印象を受けた。なんせ、我が侭で足手まといなこどもがいなくなり、素直で優
秀な青年がいるのだから。
 
 血飛沫が舞う。あの彼ならそれに恐々としていただろうが、この青年は顔色一つ変え
ない。只斬り終わった後に、寂しそうな視線を屍に向ける。
 太刀筋には、迷い一つ見あたらない。

 そうやって日々がすぎていく。優秀で素直な青年は皆に好かれた。まるで、あの『ル
ーク』を忘れ去るように。皆が信頼を彼に向け始めた頃、事件は起こった。
 この『ルーク』を、皆に焼き付ける事件が。


 いつもと同じように血飛沫が舞う。その中で剣を斬りつけるルークは、まるで踊るよ
うだと、ティアは思った。迷いのない太刀筋。確実に、しかし無駄が一切無く流れるよ
うに急所をしとめる。短い朱の髪は僅かに揺れる。きっとこれがあの彼と同じ髪型なら
余計綺麗だろうと人ごとのように思った。
 普段ティアは人に見惚れたりしないし、それが戦闘中の油断に繋がることならもって
のほかだ。もうルークが斬りつけている相手で最後だからという、安心もあったのかも
しれない。ティアより少し離れた魔物が、突如息も絶え絶えながらに起きあがり、ティ
アに向かって突進してきた。

 ティアは瞬間、杖で身を守るかのように体の前に出し目を閉じる。きっと誰かが助け
てくれる、とも少し思ったし、ティアはあまり前衛では戦わないのだ。幸い、ルークと
ティアの距離は近かった。
 きっと、このルークも助けてくれる…。

 だが、それは現実にはならなかった。鈍く、突き抜けるような痛みがティアの全身を
駆けめぐる。傷を負った部分に、心臓があるかの如く拍動する感覚を覚えた。
「ティア!!」
 ガイが走り、すでに満身創痍な魔物にとどめを刺した。
 ティアはへたりとその場に座り込む。杖を支えにして。ガイたちは、皆助けられる距
離にあったにもかかわらずそれをしなかったルークを睨んだ。
「どういうつもりだ!」
「ひどいよ、ティアが…」
「どういうつもりなのです!? 答えなさい、ルーク!!」
「…説明して頂きたいのですが」

「…ねえ、どう、して?」

 あの『ルーク』は、例え口が悪くともそういう危ない場面に出くわしたとき、皆を助
けた。無意識の防衛反応だったのかもしれないけれど、そこは感心すべき点だった。

「どうして…って…。俺には、あんた達を護る義理も理由もないから」

 すっぱりと彼は言う。まるで「腹が減ったから飯を食う。それの何が悪い?」とでも
言うように。
「…ずっと聞いてたよ、俺」

「軍人さん、あんたは自分の身は自分で守るんだろう? 兵士なんだから」
「お前たち、あいつに、自分の身は自分で守れ、みたいなこと言ってただろう。俺もそ
れを実行しただけ」
 にっこり社交的に彼は笑う。けれどその笑みと台詞は皆の思考を逆撫でしただけだ。

「正直、俺はあいつが傷つかなければそれでいいよ」

「俺にとってこの世界はあいつだけいればいいから」
 
 言い終わるや否や、高い音が響き、ルークの頬は紅に染まる。ナタリアはキッ、とル
ークをそのまま睨んだ。
「…そうか。
 いいよ、返してやる。でも、壊したら容赦しない。
 壊すんだって分かったら、また、包むから」
 
 ルークは意識を手放す。朱の髪は長くなり、あのグラデーションが浮かぶ。瞳を閉じ
たままのその人は、バタンと乾いた、少し血に濡れた地面に倒れ込んだ。
 静かな穏やかな寝息と、まるで幼子のように幸せそうな寝顔が、その空間を支配した。

「…ルーク…。行く、なよ…?」

 あと、あまりにも、幼い声の寝言だけが。









 ルクルク二話目です。
 正直短髪は長髪さえいればそれで良いんです。長髪が宝物。
 もう少し和やかな話にしようかとも思いましたが、それじゃ、意味がないと思いこん
な路線に。
 ばばーっと勢いのままに書き上げました。
 ルクルクにしろ黒ルクにしろ、ルークが絶対的にいいわけじゃないって書きたいんだ
よなあ。だって人間だもの。間違いぐらいある方が愛おしい。間違いに何かしら絶対的
な理由をつけたくない。