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「ルーク」 高校生になってからの初めての友達(正確には先輩なのだが、お互いそんなことは気にしていない)であるティアは、普段の声色から想像も付かないくらいの甘い声(とは言っても、ルークはしょっちゅう聞いている声色だ。想像が付かないのは、ルークと後一人をのぞいた、彼女の周りの人々である)で彼の名前を呼んだ。ふかふかのソファに凭れているルークは、ぱらぱらと雑誌をめくっている。 「んー?」 そしてそのまま、返事をした。二秒後に、ゆっくりティアの方を向く。宝石か何かのようにキラキラした瞳が、ティアを映す。思わずティアのふっくらした胸のむこう、心臓がきゅうんと痛んだ。甘いトキメキに思わず瞳まで潤む。ティアは今のご時世には珍しく、一から十まで少女趣味で育った女の子なのだ。ティアのお部屋は本人のクール&ビューティな印象とは違って、ふわふわもこものぬいぐるみに、ロマンスたっぷりの古めかしい少女漫画と小説が詰まっている。自称どこぞのメルヘン国のお姫様、なアイドルだってそんなんじゃない。 そんな乙女全開なティアとお友達なのは、今年高校に入学したてのルークだ。こちらは思考はティアのように乙女でないにしろ、大きなお屋敷で花よ蝶よ、どころでなくお姫様として育てられた。男の子なのに。(でもまあ、ルークの容姿は中性的で可愛らしいから、納得は出来る。その証拠に、ティアは何時も可愛いルークにときめきっぱなしなのだ)結果として、そりゃあもう純粋培養を通り越して、破壊力抜群な天然に育った。例を挙げるならば、お金の使い方が分からなかったり、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのだと信じていたり、まあ色々だ。どこで覚えたのかは知らないが、口と素行は少々悪い。(お姫様扱いされていたのに何でだろうと、これはティアの疑問だった)それ故に天然発言が一層爆発的効果を生む。 水と油、なんて訳じゃない。けれども、何となくしっくり来ない。傍目から見ればそんな先輩と後輩が、年の差も性別も超えて仲良しなのが、皆にはとても不可解らしい。第一、うら若き青春真っ只中の高校生男子と女子が、そこまで仲良しなのに、彼氏彼女なんてわけでもない。だから一層、まわりは首をかしげては唸っている。 けれどそんなの、本人達は気にしていない。多分、不思議、なんて思うことも無いのだろう。むしろ、自分達の関係よりも何で皆が困ったようにしているのかが分からないらしい。 そんな二人は今日も今日とて、ルークのお屋敷の一室、それはそれは豪華なルークの部屋でくつろいでいた。 「ねえ、ルーク」 ごそごそと、ティアは細い指先をカーディガンのポケットに突っ込む。形の良い、ふっくらとした唇は綺麗な三日月型を描いている。随分機嫌が良いな、なんてルークはぼんやり思った。脳味噌には、さっきまで見ていた雑誌の洋服が一着、まだ残っている。 「ピアス、開けてみない?」 にっこりと笑ったティア。彼女の白い掌に握られていたのは、所謂ピアスを開けるための道具で。ルークの若干弱い脳味噌から洋服は消えて。 (あれ、これなんつー道具だっけ) なんて現実逃避が浮かんでいた。 「いやだっ! いーやーだーーーっ!!」 「大丈夫、少しチクっとするだけだから!!」 場所は先程と変わらないルークの部屋。そこで、まるで歯医者か小児科の待合室のような会話が行われている。当然、会話をしているのは先程からいるルークとティアであって。 「少しっつって、めちゃくちゃ痛いんだろ!?」 「大丈夫よ、安全ピンとかじゃなくて、ちゃんとしたピアッサーでやるんだから」 さっきまでルークが何だっけ、なんて考えていた道具の名前が分かる。が、そんなことは今のルークにはどうでもいいのだ。ルークのソファの上、ぎりぎり端まで下がって、じたばたと手足を動かす。頭を振るたび、長い朱色の髪が揺れた。そんなルークにまたがっているのはティアだ。存外強い握力で、ルークの右手首を掴んでいる。普通、こういうのは男女が別で、流れる雰囲気とかももっと別なものであるはずだ。こんな色気もへったくれもないようなふ雰囲気じゃあ、本当に駄々っ子とそのお母さんでしかない。 「でもやだっ!」 ちなみに言うと、ルークは注射も苦手だ。予防接種だの何だの時は、毎回そこら中を逃げ回っている。毎日食事や間食のたび歯を磨いているから、未だルークの歯は虫歯ゼロだ。が、もし行くことになったら注射同様嫌がるのだろう。そのときと全く同じ反応を、今ルークはしている。だから、今現在の状態がある意味では歯医者か小児科、というのは正しいのかもしれない。しかし、注射や歯医者のように、ルークのためになることではない。むしろ、子供にピアスを開けさせたがる親なんて不良上がりくらいのもんだろう。 「ルーク」 ふいに、ティアの口調が今までの言いくるめるような口調から、最初の甘いものになった。それを聞いて、ルークはきゅっと固く瞑っていた瞼を開く。ティアの整った顔が、すぐ近くにあった。ティアほどの美人が接近していたら、世の男共、特にルークくらいの思春期少年は顔を真っ赤にするか手放しで歓喜するかのどっちだが、生憎ルークが鈍ちんにして天然だ。瞳を瞬かせるしかしない。 そんなルークの様子を気にするでもなく、いやむしろそれどころかティアはどこか陶酔したような表情をした。背景に薔薇とかキラキラとか点描とか似合う、ティアの大好きな世界の表情である。その表情のまま、ヒンヤリとした指をルークの丸く柔らかな曲線を描く耳朶に持っていく。ルークはそれを横目で追った。 「ルーク、兄さんは好き?」 この場合、ティアが言う「兄さん」はルークのものではない。ルークに兄は一人いるが、ルークもティアも「兄さん」なんて優しい呼び方をしない。「兄さん」とは、ティアの実兄、ヴァンのことだ。 「好きっ!!」 言うが早いか、ルークはすぐさま返す。瞳はいつもの数倍きらめき、頬は薄紅色に染まった。ティアの兄、ヴァンのことをルークはそれはそれはもう敬愛していた。いっそもうそれっておかしくないか、というくらいには、だ。普段は照れ屋で素直じゃないルークが、こんなくらいに返すくらいには大好きだ。 「昨日ね、兄さんもピアス開けたの」 「せんせーが?」 少しの垂れ目を丸くして、ルークはティアに問う。それを見て、内心ティアはしめた、と思った。ティアは成績も良いが、こういう駆け引きもなかなかに得意だ。 「そうよ、私が開けてあげたわ」 「へー…きっとせんせーだもんな、めちゃくちゃ似合うだろうなあ…。かっこいいんだろうなあ…」 うっとり、今度はルークが陶酔しきった表情を浮かべる。そういう表情は、今はいない彼よりも目の前の美少女に向けるべきだということにルークは全く気付かない。天然なのだ。とりあえず今ルークの脳味噌を占めているのは敬愛する「せんせー」の姿だ。ティアが普段見ている兄より十倍ほど格好良く仕上がっている。 「それでねルーク」 「ん?」 「これね、兄さんが買ってくれたの。私とルークと、兄さんでおそろいのピアス。兄さんとおそろい…したくない?」 陥落しない訳がなかった。 ほのぼのギャグを書きたくて。暗い話ばかり書くのもあれですしね。めたくた楽しかったですピアスネタ。私は怖いので絶対開けたくないですが← 校則違反ですしね。 本当はあと少し続きがあるのですが、とりあえず今日はここまで。ティアルクは現代ネタが楽しいです。シリアスは重くなりすぎるので…。 ティアが年上なのは趣味です。 |