きみにだけちかうから この世の全てで一番幸せなのは自分だと、今ははっきりと言えるのだ。 どんぞこにいた前とは真逆の考え。 「じゃあお兄ちゃんお姉ちゃん、行ってくるね」 「シャーリィ、楽しんできてね」 「気を付けろよ」 淡い金色の髪の少女はにっこりと笑い手を振る。 今日は彼女の旅行。仲の良い友達と約束していた。ずっと前から楽しみにしていたら しく、一週間ほど前から機嫌良く過ごしていた。 それを微笑ましい視線で見ていたのは、彼女の姉、ステラと幼なじみで家族同然のセ ネルだ。半分だけ、心配を持って。 シャーリィは体が弱い。だからこそ、この土地に住んでいる。田舎ではあるが、空気 は澄んでいて、海は近く木が生い茂っている。これから旅行に行く土地は、お世辞にも 良い環境とは言えない。高層ビルに切り取られた空を初めて見たとき、驚きと共に恐怖 を感じた。 彼女の体が心配で、彼女が見えなくなった後、セネルとステラは困ったように笑い合 った。 「シャーリィ、大丈夫かな」 「大丈夫…だとは思う。クロエも一緒だし」 ノーマはちょっぴり心配だけど、フェニモールもいるし。シャーリィの友達の名前を つらつらと並べ、セネルはステラを諭す。 三人いつも一緒なこの家は、一人いなくなると、急に静かだ。 セネルは一人暮らしで、ステラとシャーリィは二人暮らしをしている。まあ、どちら かがどちらかの家にいる確率が高いけれど。 セネルは捨て子で、親は知らない。ステラ達の親は、昔亡くなったらしい。幸い、こ こは集落で親がいないながらも二人は幸せに暮らしていた。そこに来たのが、セネルだ った。集落のはずれに捨てられていて、親切な集落の大人達は、その子に名前と家をあ げた。 「…暑いね」 蝉の大合唱が、すだれの向こうで響いている。 「もうちょっとで、お祭りだ」 暑さと共に、くるもの。それが祭りだった。この集落で、ずっと続いている祭り。小 さいながらも、本当に活気に溢れていて、様々な伝統行事が行われる祭り。それが、み んな好きだった。当然、セネル達も。 「今年も、シャーリィだよな。メルネス」 「うん」 メルネス―巫女―。集落で選ばれる、いわば主役。この地域の守り神、滄我に祈りを ささげ、集落の発展と平和を祈る役だ。青と黒が基調の伝統的な服を着て、祈りをささ げる姿は溜息しか零れないほど、美しい。 「ステラはさ、やらないのか?」 唐突にセネルが問う。長年の、セネルの疑問だった。問われると一瞬目を見開いて、 ステラはそのあと寂しく笑った。 「うん」 シャーリィが十歳になってからは、ずっとシャーリィがメルネスをやっている。 それを不満に思ったことなんて無い。メルネスの役はシャーリィにぴったりだと思っ ているし。 けれど、この時期が来ると思うのだ。ステラはやらないのか、と。 シャーリィの前の代のメルネスはステラではない。ステラはメルネスの経験が無く、 祭りの時期はいつもセネルと過ごしていた。 セネルはステラが好きだった。 だから、祭りの時期に一緒に過ごせることはとても嬉しくて、幸せだ。 けれど、自分の好きな人があの衣装を着て、祈りをささげる姿を見てみたいと思うの も事実。ステラは、シャーリイに負けず劣らずとても綺麗な人だったから。 「私、向いていないから」 「そんなことないよ」 「ありがとう」 ふわりとステラは笑う。その笑顔を見ると、セネルは幸せでたまらなくなる。 「…なあ、ステラ」 「なあに?」 「海、行こうか」 目前に広がる海は、何処までも綺麗だ。 他じゃ見られない海だと、セネル達は思っている。セネル達は、よく海に来た。 セネルは泳ぎが得意だし、シャーリィは体が弱いけど、海が好きだ。 だから、よくステラがお弁当を作って、三人で海に来ていた。よくよく思い返せば、 今年は何だかんだで忙しく、ろくに来ていなかった。 久しぶりの、海。 「シャーリィに、怒られちゃうな」 「そうね」 二人だけで海に行ったなんて言えば、仲間はずれにされることを嫌うシャーリィは、 途端に拗ねるだろう。その姿が容易に容易に想像できて、二人は笑った。 袖をまくって、海に足を入れる。攫われそうで少しだけ怖くなるけど、心地よいのは 事実。 「ステラも、来いよ」 「うん」 スカートの裾を、少しだけ上げて、ステラは水面を蹴った。それがセネルに少しだけ かかって、服の色を一部分だけ変えた。 「やったな!!」 「きゃ!!」 仕返し、とセネルは同じように水面を蹴る。が、勢いが強すぎたのか、足下を狙った つもりがステラの顔に命中した。それにステラは、目元を抑える。 「ご、ごめんステラ!! 目に入った?」 それを見ると、慌ててセネルはステラに駆け寄る。海水が目にはいるのは、あまり良 くないから。申し訳なくて、謝った。 「いた…」 「いたい? ごめんな。目薬は…」 「くない!!」 派手な音を立てて、水滴が舞う。今度は、セネルがびしょ濡れになった。頭のてっぺ んから。その姿があんまり情けないから、ステラは声を上げて笑った。 「だましたな…」 「ひっかかったのはセネルよ?」 悪戯っ子のように笑うステラを見ると、ふつふつと沸いてきた怒りも、正直どうでも よくなる。ステラは、セネルがステラに弱いのを知っていてやるのでないか、近頃そう 思うようになってきた。 ふいに、笑い声をかき消すかのように大きな音が響く。飛び込み音だ。 それだけで、何をしているのか分かった。一般人なら、飛び降り自殺か? と心配す るだろうけど。 「そっか…お祭り、近いものね」 「今年は何人かな?」 二人が指しているものは、水舞の儀式。この地域のみに伝わる、婚約の儀だ。男女が 海の中で誓約を交わし、愛を誓うなんて、少女漫画も吃驚な、ロマンチックな儀式。 ステラは、慈しむような視線で、飛び込んだ人を見ていた。 ステラも、憧れたりするのだろうか? 意識した途端に、セネルの心臓は速いテンポでリズムを刻む。忙しすぎて、勢いのあ まり止まるのではないかと思うほど。 何時かは、ステラと水舞の儀式をしたいと思っている。申し込んで、ステラに誓いた いと。でも、ステラはどうなんだろうか? セネルと誓いたいと、思ってくれるのだろ うか? 「ス、ステラはさ」 「うん?」 「水舞の儀式、してみたいって思うのか?」 我ながら、なんて無様な聞き方だろう。思わず自己嫌悪の波がセネルを襲う。 「うん」 少しだけ頬を染めて、ステラは答えた。その笑顔に、ドクンと大きな音を立ててセネ ルの心臓がはねる。 「セネルは?」 「え、あ、その、俺は」 「ステラとだったら、いいよ」 嗚呼、言ってしまった。恥ずかしい上、格好悪い。何てことだろう!! これじゃあ、ステラはドン引きだろう。当たり前だ。いきなり自分を引き合いに出さ れて。ちらりと、ステラを盗み見た。 ステラは、泣いていた。 「ご、ごめんステラ! 俺なんかに言われちゃ、嫌だよ、な…」 セネルも、泣きたくなった。拒絶されたのだ。他でもなく、ステラに。どん底に突き 落とされた気分だ。自分以外の他人、大好きな人に拒絶されることがこんなに辛いこと だったなんて。 「ちがうわ…」 「え?」 「わたしも、セネルとがいいの。セネル以外、誰とも水舞の儀式、したくない」 泣き顔のまま、笑った。 衝動のまま、セネルは彼女を抱きしめた。 夕焼けに染まった海を背景に、二人は歩く。お家を目指して。 しっかり、指と指を絡ませて、この上なく幸せそうに。 もう少し、暑くなって、お祭り囃子が聞こえる頃。 二人は、家族になる。 「セネル」 「ん?」 「指切り、しよ?」 「…うん」 本当の、家族になる。 うざく長くてすいません。 でも楽しかった…!! ラヴラヴなセネステ。