水仙




 水仙は自惚れから生まれた。
 他人を愛することを知らないが故に、自分の姿に恋をするようにされ、決して実らない愛を知った。
 それでも、愛する自分の姿を見たいがために、水際で自分の姿を見続けていた。
 その所為で水際で咲き続ける花になってしまったのだ。


「馬鹿みてー…」
 いつだったか誰かに聞いた話。
 あまりにも悲しく、愚かな話。彼の脳裏をかすめた、素直な感想。

 水際に咲いている花。どんな時でも、そこから離れない花。
 赤髪の彼―ゼロスは、それを見つめていた。
 白の花びらは揺れても、川岸から離れようとしない。
 ―健気なんかじゃない。この花は。

 いっそ何かに縛られ続けるなら、枯れてしまえばいいのに。

 あんな話を聞いた記憶があるなら、目を背けたいはずなのに。
 ゼロスの目は、それから離れることがなかった。
 むしろ、離すことができなかった。

 この花は見つめ続けている。
 自分を。美しい姿が、変わらないと信じて。
 いずれ花は枯れ、透明な水面には朽ちてゆく姿が映るであろう。
 愛した姿が、ボロボロ傷つく様が。

 その彼の思いがこれに宿っているなら、彼はその姿を見てどう思うだろう。

「俺様も…いずれそんな風になるんだろうな…」
 花とは枯れゆくまでの時間が違うだけで、人もいずれ、枯れて、朽ちていく。
 もっとも自分はそうなるまで、生きていけるのだろうか?
 それとも、花となった彼と同じように、美しいまま朽ちるのだろうか?

―でもその終わり方は綺麗じゃないだろう。

 いっそ、目に映っている水仙を踏みつぶしてやりたい。
 でも、そんなやり方はフェアじゃなくて。
 結局、自分から逃げたいだけかもしれない。どこが似ているか分からない花を踏みつぶして。

 燃えるかのような赤髪が風にのり、なびく。
 まるで止まっていたかのような水面には波紋が広がった。

「―似てるんだな…」

 何か1つに囚われて、そこから動けないで居る。
 何かに目を向けても、常に心はそこに囚われている。

 可哀想な、花。

 素直にそう思った。
 自分は自惚れてはいないけど。
―可哀想な、自分。

 けれど、違うところがあるとすれば。



 自分の傍に、自分を認めてくれる人がいること。
 こんな自分を仲間だといってくれる人がいること。




 水仙なんかじゃなく。




 それはきっと、どうしようも無いほど幸せ。

「ゼロス!!」

―行くよ。自分を必要として、呼ぶ声がするから。



 後書き
 花言葉シリーズの一番最初の話…です。確か。(その確かが信用できない脳味噌及び記憶力。)
 ゼロスのお話です。
 水仙の話は確かギリシア神話だったはずです。
 文献によって違いはありますが…。
 小三か二ぐらいに見た本の話を思い出したので。(よけい信用できないよ!!お前だいたいいくつだよ!)