Sugar and spice And aii that's nice ローレライの心中(かと言って、そういっていいのか分からない)は、ひどく複雑な ものだった。 「…帰りたい、か」 あのこども、ルークの、泣きながらの訴えを思い出す。あんまりに拙い感情と言葉。 でもその感情の中には、一点の曇りなんて無くて、遙か昔に契約を交わした女性を思い 出させた。綺麗な、ひと。 「傷ついて傷ついて傷つけられて傷つけて」 「…それでも、帰りたいなんて」 ルークとアッシュの同化を止める直前に、二人の記憶を見た。七年分の記憶と、十七 年分の記憶。あまりにも濃密なそれに、意識集合体であるローレライでさえ、目眩を起 こしそうになった。特に、ルークの記憶に関しては。 人間を劇的に変えさせるほどの経験は、あんまりにも衝撃的すぎた。残酷といっても いいほど。とくに七年しか生きていないこどもには。 気になってその一番下、底を覗いてみれば。 あのころのルークの死骸の隣で、ぺちゃんこにつぶれてぐしゃぐしゃになった小さい 心臓が、か細い音をたてて動いていた。 何がその人にとって幸せかは、その人自身が決めることであって、他人が決める幸せ なんてその人にとっては何の価値もない。ただの押しつけなのだ。だから、ルークにと って何が一番幸せかなんて、ルークが決めることだ。それは重々ローレライも分かって いる。簡単すぎるほどに。そう分かっていても、傷しか見えなかった。少なくとも、ロ ーレライにとっては。 それでもルークは、幸せだといった。他の誰でもないルーク自身がルークにとっての 幸せだといった。 ローレライの姿は、ルークとアッシュによく似た姿になっていた。そしてその手は、 ゆっくりとルークの額を撫でた。 「それでも君は、帰るんだね」 アッシュの記憶も波乱に満ちてはいる。だが、人間とレプリカという違いだけでこう も人生が変わってしまうのか。アッシュはいくらルークに奪われたからと言って、ルー クという存在自体はアッシュのものだ。ナタリアや父母の思いだって、アッシュのもの だ。ルークを形作る細胞さえ、元はアッシュのものなのだ。 いくらナタリアや父母が「ルーク」を同じように思ったって、ルークが本当に欲しい それは手に入らない。レプリカだから、だ。唯一を唯一にしない存在だから。 レプリカだから。たった、それだけで。 意識集合体であるローレライからしてみれば、人間にもレプリカにもたいした違いな んて無いように思われる。ただ母の胎を介したか否かだ。それと、構成する物質。生ま れる命は自分の生まれ方を、生き物を選べないというのになんていうことだろうか。 「…君に幸多きことを」 その事実をほんの少し、本当に少し、他人に分かって欲しかった。 この選択は間違いではない。自分は崇高たる存在なのだから。 勝手な理由を並べて、ローレライは一つを決めて、実行した。 今もう一人、彼であって彼でないこどもが、生まれようとする。 薄暗く薄暗く。 このままじゃコメディになんてなれやしないと思います。私が誰よりそう思っています。