この身はそれすら、許してくれないのだ。 腹の底に眠る 寝る前の、たゆたっている曖昧な意識の中で、ルークはガイの名前を呼んだ。 「なあ、ガイ」 こどもらしい、柔らかい声色に呼ばれて、ガイは目を細める。そのままこどもの横た わっているベッドへと近づいた。ルークの体を踏まないように気を付けて、それに腰掛 ける。そうすれば、ルークの白く細い、頼りない指がガイの服の裾を掴んだ。 「どうしたんだ?」 それに一層目を細めて、ガイは問うた。暗闇の中に浮かぶルークの肌は、ぼんやりと した照明の所為で、自身の髪色に近い色に染まっていた。眠い為か、潤んだ淡い緑の翡 翠も、その色が照らしている。 問うても、ルークは曖昧に微笑むだけだ。甘やかすような口調と動作で、再度ガイは ルークの言葉を促す。 「言ってみろよ」 「…なんつーか、変な話だけどさ」 もごもごと、決まり悪そうにルークは紡ぎ始める。その様子は微笑ましくもあったけ れど、ガイの中に静かな痛みを落とした。以前のルークだったら、少なくともガイを相 手に、こんな態度なんて取らなかっただろう。何時だってあのころのルークは、真っ直 ぐだった。歪んだあの世界の中で、ルークだけの真っ直ぐを持っていた。 そこまで思い、ガイは再びルークに視線を落とした。ガイが何の反応を示さないこと を疑問に思ったのか、ルークは不安そうに見上げている。 「ああ、構わないぜ」 そう言ってガイは、ルークの前髪を撫でた。さらさらと手からこぼれ落ちる髪は一本 一本が上質の絹糸のようだった。そのガイの動作でやっと決めたのか、ルークは再び口 を開く。 「ガイはさ、カニバリズムって、知ってんのか?」 それに一瞬、ガイの動きが止まった。ルークの形の良い唇から出る言葉としては、あ んまりに相応しくなかったのだ。 人食嗜好。ガイは実際にしたことも、その現場を見たこともない。けれど、宗教概念 としてそういうものがあることは知っていた。 「…あんまり、詳しくないけど、聞いたことなら」 「そっか」 ガイの動揺しきった回答を気にせず、それだけルークは言った。それから、物憂げそ うに瞳を伏せる。きゅっと結ばれた唇と相俟って、いよいよルークは清らかな美しさを たたえた、人形のようになった。(まるで聖母像のようだと、ぼんやりガイは思った) 「何でまたお前がそんなことを」 「ジェイドが持ってる本、こっそり隠し見てんだよ、最近。そしたら、あった」 ガイは内心、舌打ちをした。ジェイドの持っている本で、ルークに相応しいものなん て恐らく片手で足りるだろう。どこか世を達観していて、物事を客観視できるジェイド のような人種が読んでこそ、そういう類の本に初めて価値が生まれるものだ。ガイだっ て読んで理解どころか、納得できる自信は無い。七年しか生きていないルークが読んだ ら下手な傷を負うのがオチだ。 「…がい」 ふいに、ルークはふやけた口調でガイを呼んだ。その呼び方は、ガイの中で喋られる ようになったばかりのルークのものと重なる。どこか違うそれもやはり、ガイの中に痛 みを落とした。 「俺はレプリカだから、死んでも食べて貰えないな」 ガイの背中を、撫でた。ちょうど、反対側にガイの臍がある辺りを。心底愛おしそう に、撫でた。(まるでガイが普段ルークにやるように) 「ちゃんと体が残ったら、ガイに食べて貰えたのに」 (そしたらおれら、ずっとずっといっしょだろ?) 「ガイの腹の中で、眠りたいんだ」 愛おしそうに、なで続けた。 こんなガイルクブームです。 いいじゃない薄暗くて仲良しなガイルク。 歪んだかたちばかりでごめんなさい。