オレンジ 「ノエル」 自分を呼ぶ声の方を向く。けれど太陽の光が眩しくて目を細めた。 朱の髪は日の光に透けてキラキラ金色に輝く。それを純粋に綺麗だと思えて少しだけ うれしくなった。 「ルークさん、どうかなされたのですか?」 今はみんなは自由行動で、ノエルはアルビオールの整備。整備は苦じゃなかったし、 何より自分で何から何までアルビオールのことに関わるというのは、誇らしかったし充 実感で一杯になれる。 そして今丁度一息ついたとこだった。 「みんなどっかいっちまって、一人だけでもつまんねえだろ」 そう言ってルークはノエルにカップを差し出した。何のことだか分からないままノエ ルはそれを受け取る。瞳だけでそれをのぞき込むとそれはオレンジ色の液体だった。 「オレンジ、ジュースですか?」 「うん。美味そうなオレンジあったから、買って宿屋でつくってみた」 折角誰かに飲ませようと思ったのに誰もいねえんだぜありえねー! と言う彼の台詞 とは正反対に何処か嬉しそうだった。 「だからさノエル、飲んでみてくれないか?」 にこにことルークは笑う。ノエルはというと自分を選んでくれたという事実が嬉しく て信じられなくて動転していた。 違うのよ。ルークさんは私しか居場所が分かる人がいなかったから…。 そうは思っても心内は幸せとうれしさで一杯だった。 「あ、は、はい、私で良ければ…」 「なんだそれ。ノエルでいいんだよ」 いつも世話になりっぱなしだし。そう言いながらルークは自身のカップを口に運ぶ。 どうしよう。 心臓のテンポが確実に速くなっていく。カップを持つ手が僅かに震える。 ああもう落ち着いて私!! そう必死で自分を奮い立たせて、カップを口元に運ぶ。 オレンジの爽やかな柑橘系の香りと、甘酸っぱさ、そしてどこか落ち着く香りが口内 に広がった。 「美味しい、です…!!」 「本当か!」 ぱあっとみるみるうちにルークの表情が明るくなる。太陽のような、というのはルー クのためにあるのではとノエルは思う。きらきらしていて、輝いていて。 こっちまで、満たされるような。 「あ、ノエル」 「何ですか?」 「睫毛ついてる。取ってやるから、目つぶって」 「え、あ、はい」 ふわりとルークの手がノエルの顔の触れる。ルークの手は少し冷たく、ノエルにはそ れが心地よかった。何故だろうか。見えないのに、すごくドキドキする。ルークの今の 表情とか、自分は赤くなっていないだろうか変な顔をしていないだろうか心臓の音がば れてしまわないだろうかとか、そんなことがノエルの脳内を一気に占める。 意外にも取れないのだろう。何回か触れる指先がくすぐったい。 「ん〜…。…よし、取れた!」 ぱっと離れていった手が少し寂しくて、ノエルは礼を言いながらもその気持ちと同じ ように少しだけ寂しく笑いを作った。 「ありがとうございます」 「いや、いいって」 気にするなと手を二、三回振る。そしてそのあと照れ隠しのように、ルークはオレン ジジュースを一気に飲み干す。飲み終わると口元をぐいっと拭い、じゃあな、と慌てて 去っていった。 「…本当に、ありがとうございます」 見えなくなってしまったあの朱に向けて、ノエルは小さくお礼を言った。 そしてその少し後、入れ違いのようにルーク以外の皆がやってきた。 「ねえねえノエル、ルーク見なかったぁ?」 黒髪で、少し色の濃い少女はノエルに向かって言った。 「ルークさんですか? 皆さんを探しに行ったものだとばっかり…」 「ええ!? アニスちゃんたちずっと宿にいたのに! ルークったら買い物して来るな りどっか行っちゃうんだもん〜!」 え? そのアニスの不満げな台詞を聞いて、ノエルは思考が停止した。 ルークは、宿に誰もいなかったから自分のもとへ来たと言っていなかったろうか? 「…ルークさんなら、宿に誰もいなかったから、って私の元にこれを…」 おずおずと、ノエルはカップを差し出す。何だかもったいなく思われて、あのあと二 口ほど口を付けてから、そのままにしておいたのだ。中のオレンジジュースはもうぬる いが、爽やかな香りはそのままだ。 「…ルークが、これを?」 カップを受け取りつつ、ふむ、と思案しながら言うのはジェイドだ。 「アニース、ちょっとこの香り、覚えがありませんか?」 「えっと…」 差し出されたカップのなかのものの匂いに、何か思い当たるところがあったらしい。 「…あ!! これ、レモンバームだぁ!」 「レモン…バーム…ですか?」 「はい、リラックス効果とリフレッシュ効果などがあるハーブですよ。ルーク…なかな かやりますねえ」 「ノエル最近疲れてるみたいだったから心配だったんだねえ☆ …ふふ、ルークったら やるう!」 「まあ、素敵ですわね…!」 「あいつも、なかなかやるじゃないか」 「…そうね」 それぞれがそれぞれの感想を漏らすが、ノエルにはその半分も耳に入らなかった。頬 が紅潮していき、心臓のテンポはどんどん速くなっていく。 (あれは、嘘?) (でも、どうして?) ノエルの顔は今やあの朱色より赤い。このまま顔が溶けてしまうんではないかと思う ほど熱い。 (ルークさんは、どうして、私に?) 真意は、あの朱色の髪のこどものみぞ知る。 ノエルクでラヴラヴ。 必死に甘くしました。 もうノエルクは結婚しちゃえばいいと思う。