沈んでいく。

 受け止めた体はずっしりと重く、体が揺らいだ。それはまた冷たい重さであって、ルークの喉の辺りが苦しくなる。そうか、こんな風であったのかと納得して、まだ息が詰まる。

「アッシュ」


 呼んでも、何も返ってくることはない。彼と同じだ。少し前なら、名を呼ぶだけで怒号が向けられたのに。少しだけ開いた唇は、怒号を飛ばすにはもう冷たすぎた。本来の色はそこになく、血の気は沈みきっている。薄紫はルークの胸の辺りを締めつけるだけだった。


「アッシュ、アッシュ」

思えば、今までは呼びたくともあまり呼べなかった。罪悪感とか恐れとか色々が、呼ぶことを邪魔していた。呼んだ名前にはその障害物が詰まっていたから、彼はいつも怒ったのかもしれない。

君がいたから俺がいた、なんて陳腐で気障ったらしい台詞、今までのルークなら笑い飛ばしていたであろう。けれどそれは、正しくアッシュとルークの関係を表していた。


 アッシュ、否、ルーク・フォン・ファブレがいたから、「ルーク」は生まれたのだ。ルーク・フォン・ファブレがいたから、「ルーク」は生まれて、「アッシュ」がいたのだ。

 ひとりがいたから、ふたりは生まれた。



 彼と出会ってからは悲しいことばかりだったように思う。アッシュがいると知ってから、ルークはそれまで自分の知っていたルークではなくなり、傷ついた。複製品になった。それまでは、確かに本物であったのに。

 それでも、彼がいたからなのだ。あのとき支えられた感覚、繋がっているということ、彼を通して聞いたこと、見たこと、触れたこと、知ったこと、全てが。

 そして何より、彼がいたから、あの人に、あげられた。 ルークに成る生を得ることが出来たのだ。


「やるよ」


 その言い方は正しくねぇかもしれないけどさ、そう続けて薄い笑みを浮かべた。形の良い唇は、彼と同じものであるのに、今は彼と同じ色ではない。


(かえすんじゃなくてさ、やるよ)



 意識が崩れていく。体がとろけていく。それでも、ルークは笑えた。だってもうルークは欲しいものになれたのだ。恐れることなんて、もうありはしない。

 これでやっと、アッシュはルーク・フォン・ファブレに還れるのだから。


 冷たい瞼に、そっと、口付けた。




(おまえがいたから、だから、おれは)