きみがせかいをくれたから(米噛みに銃口を)


               ルークが一人部屋を所望したのは、随分久しぶりだった。別段断る理由なんて無かっ
              たから、みなあっさりと承諾した。
               けれどガイは何故か胸騒ぎがしていた。だって、何だか最近あのこどもの様子がおか
              しいのだ。不安定といえばいいのか、なんと言えばいいのか分からなかったけど。
 
               アニスに食事の準備が出来たから呼んできて、と言われたのは好都合だった。けれど
              何故か、ジェイドがちらちらとこちらを見ていたことが気がかりだった。いつもなら言
              いたいことはすぐに言うくせに。 

              「ルーク、入っていいか?」
               二回ノックをすると、すぐに返事が返ってきた。いつも通りの。その事実に少しだけ
              慰められて、ガイもいつもの笑顔で部屋に入った。

               ルークは、包帯相手に四苦八苦しているところだった。ルークはお世辞にも器用なん
              て言えない。
              「それ、ティアがやってくれたってやつか?」
              「あ、うん。そろそろ治ったからほどきてーんだ」
              けれど、包帯はほどける様子を見せない。
              「俺が、やるよ」

               ガイの手によって、しゅるしゅると小気味よく包帯が解かれていく。白い足にはまだ
              少しだけ傷跡が残っていて、痛々しい。
               けれど、この傷はすぐ消える。

              「なあ、ガイ」
              「なんだ?」
               包帯を解きながら、応える。けれどガイの意識はほとんど包帯の方に言ってしまって
              いるから、少しだけ空っぽな返事だ。

              「いつも俺、ガイに何かしてもらってるよな」
              「まあな。でも嫌じゃないぜ? 誘拐されて帰ってきたときから、ずっと面倒見てきた
              んだ。いやだったら、そんな続くわけ無いだろ?」
               そう言ってやれば、上でルークが笑う気配がした。ガイの心も、柔らかくなる。

              「…全部、ガイがくれたんだよな。ガイが教えてくれなきゃ、俺、何も出来なかった」
               笑う気配は消え失せた。最後に、しゅるりとほどけきった包帯が滑る。
              「…ルーク…?」
              「ガイ、顔、あげて」
               言われるままに顔を上げると。口角を僅かにゆがめた顔があった。表情自体は笑って
              いるのに、雰囲気は冷め切っていて、ガイの背筋に悪寒が走った。ざわりざわりと。

              「手、だして」
               同じく言われるままに差し出したけれど、差し出したそれはじっとりと汗をかいてい
              て僅かに震えていた。
               その手のひらに載ったのは、無機質な重み。
 
               譜銃だった。


              「…これ、は」

              「俺のこと、撃っていいよ」

              「ガイが世界をくれたから、ガイが俺の世界を終わらせていいんだ。これ、殺傷能力は
              低いから、一回撃ったくらいじゃ簡単に死なない。一回撃って気が済んだら、医者を呼
              べばいい。済まなかったら、何度でもいい」

               さあ、撃って。

               ルークは笑った。とても綺麗な笑顔で。凍り付くような笑顔で。

               確かに自分は、ルークを恨んでいた。殺そうともしていた。全ての感情を憎悪に代え
              ていた。けれど、決してこんなのを望んだんじゃない。今は、こんなのを望んでいるん
              じゃない!!

              「ガイ? 撃たねえのか?」
               何も知らなかったあのころの笑顔で、ルークは問うた。エメラルドの濁った瞳にうつ
              るガイは、おびえていた。銃に対してなのか、ルークに対してなのかはガイにはわから
              ない。理解の範疇を越えていた。


               ガイには、泣き崩れることしかできなかった。




               こんなのが、恩返しだなんて!!