血まみれの道しるべは セントビナーで、アッシュ達はルークたちと出会った。ミュウと、何故かアリエ ッタとシンクたちも一緒だった。ルークの瞳は彼らには、相変わらず恐怖としか見 えなかった。 底の見えることがない闇。そしてその奥の感情。見えないものを探し続ける。 ―自分達の理解の範疇を越えたものは、恐怖でしかないのだ。皆。 そしてその存在が、ルークだった。 アグゼリュスの人々が死ぬのは、アッシュの協力もあり、何とか免れた。が、崩 落してしまい、今ではセントビナーが危ない。だからこそアッシュたちは来た。 が、人々はいなかった。崩壊しようとする土地は静まりかえり、何故かそこにい たのはルークとシンク、アリエッタだけ。 「何で、ルーク、お前が…」 「関係ないね」 恐る恐るガイが発した問いかけを切り裂いたのは、シンクだった。ばっさりと切 り捨てる。ルークに答えさせるつもりは、シンクには毛頭無かった。そしてシンク は彼らにルークに答えさせる権利もないと思っていた。 …何を、いまさら。 シンクの中に、そんな思いが浮かんで消えた。 今までルークの後ろに隠れていたアリエッタが、ルークの服の裾を掴んで軽く引 っ張る。それに気付いたルークはアリエッタの頬にそっと触れ、歩き出す。 そのルークの行動は、皆に衝撃を与えるには十分だった。ルークは決して、自分 から人に触れなかったし、触れられることを拒んだ。何時も、あからさまな嫌悪感 と憎悪を示した。 そんなルークが、アリエッタに触れられたことを拒まず、自らアリエッタに触れ たのだ。 「…何で根暗ッタがお坊ちゃまと一緒にいるのさ」 同様のあまりそうアニスが告げた瞬間、ルークがにこりと笑う。 かと思えば、アニスの喉元に剣の切っ先が向けられていた。あと、ほんの数ミリ ほどで触れるところに。 もう一度ルークは笑い、細めていた目を開き、ゆっくりと、初めて口を開いた。 「殺してやろうか糞餓鬼」 穏やかな表情とは裏原に、あからさまな殺意がアニスに向けられている。剣先に 迷いなんてものは存在しない。それを確認すると、アニスの瞳孔が開く。咽が小刻 みに震え、唇は小さく開いて咽と同じように震えた。 圧倒的な、死の恐怖。綱渡りの生死。アニスは生まれて初めて、明らかなそれを 体感した。 「ルーク!!」 ティアが悲鳴のように叫ぶ。が、ルークは何の反応も示さずに、剣先をアニスの 喉元で止めている。剣先は、白い肌に触れない。 皆が息をのんだとき、アリエッタが、もう一度軽くルークの裾を引っ張った。 「ルーク…いい、です」 アリエッタがそう告げると、やっとルークは剣を収めた。鞘にしまうとき特有の 金属音が響いた。 そして何事もなかったかのように、また歩き始め、アルビオールに乗り込む。ア ルビオールにはセントビナーの人々とおぼしき人々が乗っていた。 エンジン音が響いた後、アルビオールは飛び立つ。それを只、何も出来ずに皆は 見つめていただけだった。アルビオールの姿が見えなくなった頃、やっとアニスは へたりと地面に座り込み、体全体を震わせる。 「死んじゃうかと…思った」 震えは止まるどころか、どんどんアニスを浸食していく。あの圧倒的な殺意が、 恐怖が、色濃くアニスを包むのだ。 「お坊ちゃまって言ったから…?」 おかしいよ、と嘆くアニスに、ジェイドは淡々と告げた。 「アニス、その程度で殺そうとするのなら、今私たちは誰も生きていませんよ。 …恐らく、アリエッタのことを根暗呼ばわりしたからじゃないですか?」 それを聞くとアニスは、すっかり力の抜けた手のひらを握りしめる。 「それだけで…? アリエッタのこと悪く言ったから…?」 ティアがアニスの心中を察し、言う。その言葉は非道く不安げだった。 「…異常だよ、あんなの…!!」 アニスの呟いた言葉は、ティアとイオンのなかの、底の記憶を引っ張り出して焼 き付ける。二度と忘れさせないかのように。 「…あのときも」 ティアの言葉は、あまりにも小さく、誰かに届くには心細すぎた。 「…人間なんかが生き残るより、こいつらが生き残る方が大事だ」 人を喰らう可能性を持つライガの卵を持ったライガクイーンの前で、ルークは淡々 と告げた。ティアが、ライガクイーンの危険性を示したが。 「何を言うのよ!!」 ティアが珍しく頬を紅潮させて叫ぶ。ティアからすれば、目の前の魔物なんかより 人間の方が大事だ。イオンだってそうだが、ルークは違った。 「人間のことなんか知ったこっちゃねえ。あいつらなんかのために、こいつらが殺さ れる必要なんかない」 「でも…ルーク…」 諭すような口調でイオンが告げようとした。が、それはルークによって払われた。 「じゃあ、お前らは、「お前らが魚や肉を食うから、こちらは困っている。魚や動物た ちのために死ね」って魚や動物に言われて死ぬのか?」 言って、射抜くような視線で見つめた。 それを聞けばイオンとティアの目が、大きく見開かれる。胸の辺りに痛みが走った。 「お前らは、そういうことを言ってるんだ。こいつらが人を食うのは、生き抜くためだ ろうが。古今東西、そうやってこいつらは生きてきた。それを俺らに止める権利なんて あるのか?」 何も、言い返せなかった。自分達は当たり前に、栄養だのなんだの理由を並べて肉や 魚を喰らう。それと、一緒なのだ。むしろ、人間より純粋ですらある。人間のように嗜 好で食べ物を決めるわけではない。ただ、自分達に必要な栄養のみを摂取するのだ。 そのことを思うと、もう一度ティアとイオンの胸に痛みが走った。今度は、先ほどよ りハッキリとした痛みだ。 「でもルーク、それでも、僕は…」 イオンが続けようとすると、何を思ったかルークはライガクイーンに近づき、腕を差 し出した。当然、気の立っているライガクイーンはそれにかみつく。ルークの腕から血 がしたたり落ちた。ルークは最初こそ顔をしかめたが、その後は顔色一つ変えない。 そしてそのまま大きなライガクイーンを持ち上げ、片手で卵を抱えた。 「…こいつらが、人間のいない他の場所にいけば問題ねえだろ」 そしてそのままどこかへ歩き出す。血を落としながら。そのあとに、小さな聖獣がつ いていく。 「待って欲しいですの!」 などと言い。 ルークが歩いた後には、まるで道しるべのように赤い赤い血が滲んでいる。それは地 面に滲んでも、決して馴染むことはない。空間上で非道く浮いていた。 それはまるで、世界の中のルークという存在を表しているかのようだった。 帰ってきたルークは、傷口が綺麗に塞がっていた。 恐らく、あのライガクイーンを「ママ」と慕うアリエッタが治したのだろう。それな らば、ルークとの接触も頷ける。 不思議だ。ティアは思う。 何故か後悔している自分が、彼女の中にいるのだ。 あのとき、どうしてルークの中に踏み込まなかったのだろう。そうすれば、ルークは 自分と向き合ってくれたかもしれないのに。 何故そう思うかなんて、ティアには分からなかった。ティアだって、「ルーク」を異 質として見て、恐れていたはずなのに。 どこからか湧き出る後悔の念は、どこかわからないティアの心の一部を灼いた。 黒ルク四段ですわーい。(ドンドンパフパフ) 黒ルークさんはアリエッタたちに優しくなると逆に他の人物には冷たくなります。 わーいさすが黒! 書きたかったライガの話が書けて満足です。