光を生み出す闇は


 ルークは、シンクと出会った。シンクもまたどこか虚無的な思考の少年で、どこか波
長の合うものを、互いが互いに感じていた。それを感じたから、どうこうするわけでは
なかったけれど。 
「シンクか…」
 言いつつルークは起きあがり、前髪を掻き上げる。シンクはなんてことなさげに、仮
面の下で笑って見せた。唇はゆるくカーブを描いている。
「レプリカだって、知ったんだって?」
 口調は挑戦的だが、その態度にはそういう類のものは一切含まれていない。むしろ気
遣うような、そういうものに近かった。…憐憫かもしれないが。
「だから、どうした?」
 言われ、面倒くさそうに呟く。同情なんていらないと、突っぱねる意味を込めて。中
途半端な憐憫や哀れみほど傷つけるものはないと、ルークは知っている。「可哀想に」
と呟かれた言葉や視線は、傷口を広げるだけだと知っている。だからこそ、ルークは誰
にも憐憫は向けなかった。鬼だと罵られようが、心がないのかと問われようと。



「どうしたって…絶望したかと思って」
 今度の笑みは挑発的なものだった。クスクスと楽しそうな笑い声が口元から零れる。
が、それを見てもルークの表情は変わらない。
  只、言葉が決まっていたかと思うほど滑らかに、詠み上げるように紡ぐ。アッシュ達
に紡いだときと、同じ口調で。
「絶望なんか、するわけないだろうが」
「…何でさ」

 シンクは、問う。その答えが不思議でならなかったのだ。シンクとしては、絶望し、
うちひしがれる様を期待していた。

 「人」の存在として望むものも、愛してくれるものもいないにのに生み出された。か
と思えば用が無くなった途端、人どころか、廃棄物のように捨てられた。何度恨んだこ
とだろう。何度絶望しただろう。

 そしてその後に、連なり、重なる感情の果てを見た。
 
 最後に残ったものは、虚無。

 終わりのない淵。 
 
 恨みや悲しみ、絶望の果てに彼は確かにそれを見た。

 
 シンクはそうだった。糾弾した、うちひしがれた、全てを憎んだ。
 だから、ルークにもそれを期待していたのに。

 「ルーク」も同じだと思っていた。内側から感じる虚無感は自分と同じものだと思っ
ていた。でも、それは違うのだろうか? 



「…人外の生き物だろうがバケモノだろうが、俺は俺だ。ここにいる。どんなに汚くて
もドロドロでも嫌でも。…それだけは変わらない。俺が望まなくても。お前だってそう
だろうが」

 聞いた瞬間、不思議と虚無の中に、僅かな光が差す。胸の辺りがむず痒くて、何とも
不快だ。
 個だなんて!! 最も聞きたくない言葉で、最も認めたくない言葉だった。
 

「お前だって…って、何を言っているのさ」
「レプリカなんだろうが、お前も」
 瞬間、シンクをその言葉が貫く。ぶすりと。シンクの地盤が一気に崩れる。気付かれ
ていないと思っていた。極力、そういうそぶりは見せないようにしたし、彼との接触は
少なかったから、悟られることはないと思っていた。

「多分…イオン…違うな、あれとは違う、イオンのレプリカ。あのイオンも少し毛並み
が違う。俺と一緒の存在のはずだ。癪だけど」
 違うか? と言ってのける。シンクの心情を表すかのように、強い風が吹き木の葉は
音を立てた。ざわりざわりと。
 瞬間、ルークから深い闇が見えた気がした。観察力、第六感。それらは全てその闇か
ら生み出されているのではないか。そんな錯覚すら覚えさせる、深い深い闇。それらが
瞬時にシンクを圧倒する。

「…だからなんだっていうんだ!!」
 レプリカ失敗作代用品邪魔者廃棄物役立たず出来損ない不良品死に損ないバケモノ!!
 意味のない存在!!
 どうせそうだ、変われはしない。個になんてなれないし、なりたくもない。
 なったって、今さらどうすればいい!! 今まで、誰かの代わりとしてでも生きられ
なかったのに!!

「そうさ、どうせレプリカ、代用品!! 生きているだけ無駄なんだよ!! 僕は!」
 まくしあげるように一気に言った。酸素が足りない。シンクの頭がぼうっとする。胸
の内に、何かが燻っている。その感覚がまた、シンクを不快にさせた。

 聞いたあと、ルークは笑ってみせた。
 ひどく穏やかに。
 何かは分からない、深い深い感情を底にもって。
 そしてシンクに、今までの様子からじゃ信じられないほど、笑みと同じように穏やか
な声色で告げた。
 
「でも、お前はお前だ。シンクだろう。イオンじゃ、ない」

 そう言って、またいつもの表情に戻る。まるでさっきの表情と声が幻のように。どこ
か遠くを見るように、ルークは視線を宙に投げた。エメラルドに光は宿らず、くすんで
汚れている。
 その様子に、思わずシンクは何を探しているのか聞きたくなった。(でも、彼はそれ
どころじゃなかった)

 シンクという名。それを、名前が持つ真の意、個の意味で呼んだのは、彼以外に誰が
いただろうか。考えたら、一人だけいた気がした。桃色の髪色の、無垢で純粋な少女。
でも、少女はシンクが代用品だという事実を知らない。代用品と知って、二度と個の意
味で呼ばなくなるかもしれない。彼女は、シンクがなるはずだった「イオン」が好きだ
から。
 けれど、事実を知った上でルークはシンクと呼んだ。 
 イオンでもなく、個の意味でシンクと呼んだ。

 それは、シンクの全てを壊すほど圧倒的な力。シンクを構成する全てが、がらがらと
音を立てて崩れる。決して、嫌な意味でなく。鎖が全てパチンとはじけた。
 はじけた鎖の中から光が満ちあふれ、全てを包む。シンクの胸に燻っていたものが、
穏やかな温もりになった。

「…決めたよ」
 シンクはゆっくりとした動作で仮面をはずした。やはりイオンと全く変わらない、そ
れこそ寸分の狂いもない顔つき。その表情は、穏やかに笑っていた。ルークは何も言わ
ず、彼を見据えた。

「あんたに、協力するよ。『ルーク』」




 闇が闇を砕いて光を生む。
 何て馬鹿な話だとは思うけれど、決して悪くはない。

 いつか、彼の闇も砕けるだろうか。


 

 












 黒ルク三話目、シンクとルークはここから始まります。
 これからうち解けていってほしいですね。(希望的観測)
 そして漆黒ルーク参上。白ではないです。
 黒の中で悟りを開きました。レアものです。