美しかった時なんてあったろうか。

 時折ぼんやり、ルークはそんなことを考える。

 その時折が、今だった。
 もうすぐ自分は死に行く。それなのに、とりとめのないことを考えていた。


 美しいと感じるものは、ある。
 けれどそれはあんまりに儚くて少ない。いや、だからこそルークは美しいと思うのかも知れない。

 汚いものは嫌いだ。吐き気がするほどに大嫌いだ。
 けれど、やはり自身を美しいなんて思ったことはない。

(俺はきっと、いつだって汚かった)

   この手に握ったものはなんだったろうか。何を掴まされていたのだろうか。何を手にする為の掌だったのだろうか。

 掌を見る。この掌の、皺の一本一本、それすら、ルークのものではない。そっくり誰かに重なるものだ。ルークが本当にルークとして手に入れたものは何もない。全てがルークではない。だから、全てはルークのものではない。
 掴めるものなんて、あるはずがない。

(汚い、)
 消えても、浄化されることはない汚れ。偽物の細胞、一つ一つに染みこんだ汚れ。どうしてこんなにも汚いのだろうか。


 見渡す。

(綺麗、)

 偽物だというのに、どうしてかこんなに美しい。瞳は無垢で無知だった。


(ごめん、ごめんな)



 はらはら、涙を流した。涙を流すことなんていつぶりだろうか。はらはら、こぼれ落ちた。


(…殺すんだ)

 大嫌いな、あいつらみたいに。

 はらはら、泣いた。


 美しかった時なんて、無かった。