一万人もの複製品たちは言った。 「…お前達には分からない。私たちとて、自ら捨てたくて捨てるのではない。生かすた めに死ぬのだ」 と。うつろな目の奥には、確かに光があった。美しくはない、泥にまみれた硬貨のよう に鈍い光だった。死に絶える寸前の、それでも戦おうとする魚の目だった。 その目が、光が訴える理由。到底、皆には分からない理由だった。 痛みよ、訴えろ、何よりも強いそれを レムの塔は今や、一万もの複製品達であふれかえっていた。彼らは黙々と、頂上を目 指す。決して、それは生きるための行為ではない。彼らが差し出すのは、他でもない自 らの命なのだ。それらが、今空を覆っている汚れた障気を消す。 動物の帰巣本能のように。魚が、自らの命を持って新しい命を生むように。 彼らは、差し出そうとする。生きようと願っていても。 「…ふざけやがって!」 それを見ていたアッシュは、衝動的に叫んだ。やけに静かな空間が、彼の声によって 震える。けれどそれにかえってくるものなんて、何一つ無かった。アッシュから生まれ た存在は、アッシュの意思とは全く無関係に動くのだ。それが憎たらしくて憎たらしく て溜まらなかった。アッシュは奪われたのに。アッシュは失ったのに。 それなのに、ルークとアッシュは別人だという。 物質としては等しいはずなのに、全く遠い人物だという。 「…ルークを、止めるぞ」 アッシュの声が空間に沈んだ頃、ガイは呟いた。奥歯をかみしめたらしく、ギリギリ という音が僅かに響く。ガイにしては珍しく、苛々しているらしい。端正な顔を歪め、 彼はレプリカ達が上っていく姿を見上げた。 「…ええ、」 ティアが俯き、答えた。返事の代わりにガイは歩き出す。それに、皆も続こうとした。 が、続か、なかった。 何かが、ガイの頬をかすめたのだ。次に、アッシュの鳩尾辺りにも何かがかすめる。 「…っ!?」 「…アリエッタっ!? それに、シンク!?」 そう叫んだのはアニスだった。ソプラノが張り裂けそうに裏返る。 そのアニスの叫びを聞いて、皆は冷水でも浴びさせられたかのような様子で、名前を 叫ばれた二人を見た。確かに名前を叫ばれた桃色の髪の少女と、緑髪で仮面を付けた少 年が立っている。 アリエッタは泣きそうな表情で、シンクは(仮面で顔が隠されているから表情は伺え ないが)苦しそうに唇を弾き結んでいる。 「…てめえら、どういうつもりだっ!」 アッシュの叫びにも、二人は動じない。ただ、答えとも言うようにそれぞれ臨戦態勢 に入った。 「…ここから先は、行かせ、ません…!!」 「ルークの邪魔をするなら、僕らは全力でお前らを止める」 「…何、で?」 呆然とした様子で、ティアはそんな二人を見た。恐らく自分達よりもルークの生を望 んでいる(渇望している、という方が正しいかも知れない)であろう二人が、ルークの 死を止めようとする自分達の邪魔をするという。訳が分からなかった。複製品達が自分 達の命を差し出そうとすることと同じくらいに、ティアには訳が分からなかった。 「…やっと、」 もう命がないであろうルークのつぶやきを聞いたものは、誰もいなかった。 おまたせしました、二十話です。 まさかこんなに続くとは。 いよいよ一番書きたかったシーンへ行きます。 やっほいっ!!