そしてまた出会えるから

 自分はレプリカ。
 代用品。
 ニセモノ。
 邪魔な存在。
 穀潰し。
 役立たず。

 ―バケモノ。


 何度往復させても、その言葉たちによってルークの心が切り裂かれることはない。
 彼が本当に切り裂かれたのはあの日だけで、あの日以上の苦しみなんて体感すること
はないと思うし、体感したとしても、彼の中で彼の感覚はすでに狂っていた。あの日以
来、自分という存在すべての窓が閉じ、傷口は現在進行形で広がっている。ぐちゃぐち
ゃに黒く、汚く。



 ルークは人間という生き物が嫌いだった。真っ黒で傲慢でドロドロで。綺麗なままで
何かいられない。世界の端すら知らない、幼い頃に真っ白だったものはどんどん汚れ汚
される。死という絶対のものを見据えるようになり、皺が深く深く刻まれるようになっ
てから、やっと己の罪深さと汚さに気付き白くなる。その白がルークは好きだった。あ
の一番幸せだった時を思い出すから。
 ―白く戻れない人間だっているけど。

 その、真っ黒で傲慢でドロドロの代表のような自分も嫌いだった。
 今すぐ咽を切り呼吸を止めたいほど嫌いだった。
 
 そのルークの嫌悪感の波は、止まることを知らない。それはいつもルークの根底であ
って、何時だってあふれ出す。嫌悪感を支える器は壊れてしまったのだ。あの日から窓
が開かない代わりに器が壊れていって、嫌悪感ばかりがあふれ出す。



 嗚呼、人間なんて大嫌いだ。
(でも、俺という存在が一番大嫌いだ)
 消えてしまえばいい。
(俺が一番、消えてしまえばいい) 

 





「この場所は、返す」
 そうルークが告げたときのアッシュの顔を、様子を、皆は見てられなかった。(けれ
どルークはやはりまっすぐ見据えていた)
「ふざけやがって!!」
 叫び、アッシュは剣を抜き、ルークにまっすぐに向かっていった。
 鋭い刃はルークの頬をかすめる。白い頬からは赤い血が滲んだが、ルークはヴァンに
頬をはじかれたときと同じく、顔色一つ変えない。
 そして、唇を開くとまるでうたうように言葉を紡いだ。

「本物のルーク・フォン・ファブレはお前だ。そこにいる奴らが必要としているのも、お
前だ。バケモノじゃない。そいつに場所を返して何が悪い?」 
 当然のことだと、緩やかにルークは紡ぐ。その感情は、ルークからすれば当たり前のも
のだった。レプリカと告げられたところで感情が波を立てることは無かったし、ルークの
中でどこか、「ああやっぱり」と納得している自分がいたのだ。
「その場所には、バケモノじゃなくて人間様がいるべきだろうが」
 最後に吐き捨てるように告げ、踵を返して道を戻っていった。
 ついて行ったのは、声を発したのは、彼を主人を慕う聖獣だけ。


 そのあとは、その場に硬質な空気のみが残っていた。
 


 彼がついてくるな、早く帰れと言ったのについてきている聖獣は、今自身の食事を探
しに行っている。
 彼は名乗る名前を無くしてしまった。今までの自分を殺されてしまった。全てを否定
されてしまった。
 けれど、その自身は別段何とも思わない。はじめから空っぽだった気がするのだ。広
がっていく傷口は、彼自身を飲み込もうといよいよ口を大きく開ける。
 

 行く当てなんて無い。
 何処にも帰る場所なんて無い。
 帰りたくもない。


 ゴロリと寝転がる。風が彼の頬をなで、前髪はサラサラと音を立てた。
 その感覚が心地よいと、素直に思う。そして同時にこのまま、石ころのように風化し
てしまいたいとも思う。風にさらわれて、土に還って。そうしたら、どんなにか幸せだ
ろう?


 ふいに、強い風が吹いた。彼の髪はさらにサラサラと流れる。
 その強さに反射的に目を開けると、緑の髪をした、小柄な少年がいた。


「ああ、久しぶりだね」
 虚無は虚無に惹かれ、また出会った。

 そしてまた、こうやって出会えるから。


 









 黒ルークは基本自分に対しての嫌悪感がすごいこです。
 やっと緑のあのこが登場。ある種黒ルークのヒーローです。
 ぴんくのあのこは黒ルークの愛を一心に受けるヒロイン。
 水色の聖獣は黒ルークの安定剤。
 黒ルークは情緒不安定なんです。