望むのはそれだけで
「…お前らに言って、何になる」
アッシュの問いかけに、ルークはひどく冷めた声色で返した。瞳は明らかな侮蔑の色
を含んでいる。けれど、アッシュは珍しくそれには苛々しなかった。むしろ、今はルー
クという自身の複製品そのものに、腸が煮えくりかえりそうだった。
「ふざけんな!」
「…ふざけてるのはお前らだろう!!」
アッシュが叫び終わるやいなや、今度はルークが叫んだ。あまりの迫力に、空気が震
える。
それは、皆の見たことがないルークだった。皆の知っているルークは何時だって、閉
ざされていた。彼の感情の波は何時だって彼だけのもので、外に出される感情、皆と共
有できる感情なんて、本当に断片的なものだった。皆が、それがルークの全てだと錯覚
してしまうくらいには。
けれど今の彼の表情と言ったらどうだろう。
ひどく動揺しているような、その表情は怒りなのに、今までの彼とは違って妙に人間
くさかった。あんまりにも、幼くて拙い。
「代わりに、お前らが死んでくれるって言うのかよ…!!」
ルークがその言葉を紡いだって、返答なんて返ってくるはずがなかった。だって、咎
めることは出来たって、肩代わりするなんて言う勇気も覚悟も、まだ皆には足りなかっ
たのだ。皆には、自分が大切すぎたのだ。
皆が息を呑むと、ルークは少し満足したかのように息を吐いた。そのあと、ゆっくり
と薄い唇を開いた。
「…人間として生きられないのなら、せめて複製品として死なせろ」
そう言うルークの瞳は、死人のようだった。
生きているはずなのに、そこにはもう生きた光はなかった。
「…きさまっ…!」
アッシュが再び叫ぼうとしたが、それは叶わなかった。何かに囚われて、動けなくな
ってしまったのだ。脳の奥の方が痛んで、体が硬直する。
この感覚は。アッシュがそう思った瞬間、体が吹き飛んだ。激しい衝撃が襲う。その
まま壁にぶち当たった背中に、鋭い痛みが走った。
「…これは、貰っていく」
ルークはアッシュの髪の毛を掴み、体を無理矢理前のめりにさせた。
(これは、)
アッシュが抵抗しようとするが、金縛りにでも遭ったように、体を動かすことが叶わ
ない。体全てが、無理矢理、圧倒的な力で拘束されたような感覚がする。
そんなアッシュを見下しながら、ルークはアッシュの腰にある証を奪った。同時に消
すための方法でもある、それを。
「満足かよ、被験者さま」
息を乱しながら、ルークは言った。ふいに、ルークの額から流れた汗が、アッシュに
落ちる。見上げるアッシュには、何故かそれが涙のように見えて仕方がなかった。あん
まりにも、今のルークには不釣り合いな涙に。
最後に喰らった衝撃が、アッシュの記憶の最後だった。
世界が変わるときは近い。
短いですが、続きます。
やっとやっと、心中にたどり着けそうです。
一時でも皆は仲間であったからルークには死んで欲しくないと望むけれど、それを肩
代わりする覚悟はないのです。きっと。