一人は告げた。 一人は泣いた。 一人は呪った。 一人は痛んだ。 そして、一人は。 もう、逃げ道なんて残ってなかった 「…なんて、今」 ティアの肩は震えた。視線は前を向いていながら、言葉を発した人物をちゃんと見て なんかいない。瞳は虚ろで、他の何かを映していた。 「…ルークが、来た。あいつが障気を消すそうだ」 答えるように、ピオニーは言う。顔は僅かに俯いていた。青の瞳の輝きは、いつもよ り鈍かった。 「…どうしてっ! どうやって!!」 叫んだのはガイだった。その叫びは沈黙を切り裂き、皆の意識を覚醒させた。あんま りに悲痛な叫び。いつものガイからは考えられないような、幼いものだ。 「…本人が、言っていたのですね」 ゆっくりと唇を開いたのは、ジェイドだった。瞳はまっすぐにピオニーを見つめてい る。彼は知っていた。だから、確信を持って言えた。そのジェイドの様子を見て、アッ シュも同じように知る。 ああ、そうか。あいつは。 「お前はやっぱり、知っているんだな」 ピオニーは薄く笑った。眉根は寄せられている、見る人に寂寥感を与える笑みだ。 「そうだよ、あいつが告げた。方法と一緒に」 「彼は、一万人の複製品と心中するつもりです」 かつて仲間であった、ディストはシンク達に告げた。瞬間、シンク、アリエッタ、ミ ュウの時間が止まって壊れた。がしゃがしゃと嫌な音を立てて。 「…はっ、何言ってるのさ」 シンクは嘲笑って、吐き捨てた。が、その表情は引きつっていて、動揺していること 何て明らかだった。あんまりにわかりやすい表情。 「あいつが、人間のためにそんなことするわけないだろ!?」 叫ぶが、その声は途中でひっくり返る。けれどそんなこと、シンクにとってどうでも 良かった。なりふり構ってられなかった。だって、今聞いた台詞は。 心臓の鼓動が、恐ろしいほどに騒がしかった。壊れてしまいそうだ。 「…するんですよ。しばらく、君たちは彼に会っていないでしょう」 ディストの視線は、シンクの仮面の奥にある瞳を射抜く。それが何故か、恐ろしくて シンクの背中は震えた。 「…彼が私と接触したのはそのためです。今から起こすことの、準備」 「ふざけるなっ!!」 勢いよく、シンクはディストの胸ぐらを掴む。かみしめられた唇は震え、冷や汗が頬 を伝っている。ディストはそれを冷静な視線で見ていた。 「あいつが、ルークが…そんなっ!!!」 「…嘘、ですっ…!!」 シンクの台詞を引き取るように、アリエッタは泣きながら言った。幼く、動物的な泣 き声と叫び。頬と鼻はすでに真っ赤で、瞳は喪失へのおそれで震えていた。 「だって、だってルークはっ、アリエッタと、いっしょに…!!」 つられるように、ミュウも泣き出した。小さな、か細い声で。 「ルークは、僕らといっしょにいるんだっっ!!」 シンクの叫びは響く。暴力的で、泣きそうな響きがディストの鼓膜で。一瞬しんと静 まりかえった後、三人分の泣き声がその代わりとでも言うように響いた。ディストは、 何も言えなかった。出来たのは、それを見届けるだけ。 (ねえ、ルーク。この子達は君のために泣いているんですよ?) (どうして、君はそれを) 「…あいつは、ふざけやがって!!」 アッシュは叫んだ。複製品を呪う言葉を。でも、それはなんの縛りにもならないこと をよぉく知っていた。 彼は知らない。 誰かが彼のためになく事を、誰かが彼のためにおこる事を。 17話目です。 ルークは聡く、それでいて知りません。 自分で自分を追いつめています。