アッシュは聞いた。その方法を。 それは現在の状況を打破できるものであり、忌まわしいものを同時に二つ消せるもの だった。けれどそれを決断するには。 「…アッシュ、あなたには選べますか」 あんまりすぎる、方法だった。アッシュは、多くのものを持ちすぎていた。 選択肢は決まっているのだ 「…アッシュ、どうしました?」 「ナタリア…何でもないから、気にするな」 ナタリアの瞳が真っ直ぐにアッシュを射抜く。純粋にアッシュを心配するその色は綺 麗で、アッシュの胸はチクリと痛んだ。あまりに綺麗すぎて、あの圧倒的な濁りを思い 出させたのだ。対照的なあの瞳を。 アッシュは思う。いっそ、奪われたままなら選択肢は楽だったのかもしれない。それ ならば、選択肢は一つしかなかった。無くす事なんてきっと無くて、ただ捨てるのみで 良かったのに。場所があるということは、こんなにも辛いことだったろうか。問いかけ てみたって、返事が返ってくるはずがない。彼の腰についている「証」の重みが、今の アッシュには重すぎた。 「障気を消してやるよ」 その声は凜としていてよく響く。が、ひどく硬質で何にも混じることなく消えた。消 えた後、目の前の人物達は非道く動揺した表情を見せた。一転して空気がざわつく。 「消してやる…って、方法が」 「あるから言ってんだろうが」 ルークは目の前の人たちの顔を見ずに言い放つ。有無を言わせない何かがルークから 発せられていて、誰も次の言葉を紡げない。恐れすら感じされるほど、潔い態度。 「ただし、条件がある」 「…何だ」 ルークが言えば、ピオニーが神妙な面持ちで問う。その表情には飄々としている、い つもの明るさは一切見受けられない。表情だけでなく、全てが真剣で一国の主の表情そ のものだ。 「世界中のレプリカ達の保護だ。これが呑めないのなら、俺は障気を消す気はない」 「…分かった。だが、成功するという確証があるんだな。方法は?」 問えば、今まで下を見ていたルークがふいに頭を上げた。顔には自嘲の笑みが浮かべ られている。 「簡単なことだ。正し、これを実行できるのは俺と…あと一人」 誰かが、息をのんだ。空気は、どんどん残酷なものへと変わっていく。坂を転げ落ち るように、一気に。 「…一万人のレプリカと、心中…」 第七音譜術師、一万人ではない。複製品、一万人だ。事実、複製品は普通の人間とは 違い、第七音素で構成されている。だからこそ、イオンはあんな死に方をした。(消え 方という表現の方が正しいかも知れない)普通の人間としては間違いな、消え方だ。イ オンの詠んだ預言を思い出し、アッシュの胃の辺りが急に重くなった。 実に理にかなった方法だ。世界を混乱させる、穀潰しの存在が消えてくれるのだ。そ れも、一万も。 けれど、それを決断できない自分がいるのを、アッシュはよく分かっていた。 「ローレライの剣を使って、俺が一万人のレプリカたちと心中する。どうだ、上等な方 法だろ?」 ルークは、笑った。その笑みは蔑んでいる。 その方法を受け入れる人々を。あっさりと見捨てる、人間を。 選択肢は、たった一つだ。 ルークにとっても、世界中の人々にとっても。 考えるまでもなく、たった一つきり。 黒ルークVS世界中の人々。 これからはテンポ良く行きたいなあと思っていますが、どうなることやら…。