そしてそのとき世界が変わった 雨は強くなり、アッシュの体を打つ。鼓膜に響く雨音の他に、アッシュの耳の奥では じんじんと耳鳴りがした。 脳味噌は割れそうに痛くて、分厚い本で殴られたような衝撃だった。 嗚呼、今のは? 「…ふざけるな」 アッシュが混乱していると、蚊の鳴くような声が響いた。小さく震えているのに、そ れはどこか凜としていて妙に痛々しい。 「…お前、みたのか」 アッシュを見据えるエメラルドはやはりひどく濁っている。そのくせ今までと違い奥 がギラギラと光っていた。それをちゃんと真正面から見つめた瞬間、アッシュは思わず 身震いした。 何なんだ、コレは。 ルークのその目は、殺気立っているなんていう表現じゃ到底すまされないものだった のだ。痛み妬み辛み怒り。そのほか、アッシュには到底わからない感情が、こぼれ落ち るほど瞳に溢れている。どろどろとしたものが、瞳だけじゃすまされずに、ついには全 身から滲み出る。それらが、アッシュを瞬時に圧倒した。 ルークという存在が、傷口になった。 その事実には気付かなかったけれど、アッシュは一瞬、変な既視感と親しみを覚えた。 「…ふざけるな!!」 ルークはそう叫ぶなり、アッシュの胸ぐらを掴んでほおに拳を入れた。鈍い音と衝撃 がアッシュを襲う。胸ぐらを掴んでいた手を離した後に蹴り飛ばされ、アッシュは尻餅 をついた。 再度拳がのめり込もうとした瞬間、すんでのところで拳を受け止める。そうすればル ークは忌々しそうに舌打ちをし、剣を素早く抜く。鈍く光を放ったそれは、アッシュに 斬りかかろうとした。 「お待ちなさい!!」 雨音といびつな音をかき消すかのように、ヒステリックなアルトが響いた。それはひ どく困惑していて、変なところで裏返って響いた。 「……」 最後に一発蹴りをのめり込ませると、ルークは剣を鞘に収めた。見下す瞳は今までに ないくらい濁っていて、アッシュの背筋が震えた。 額あたりの赤毛を掴まれ、アッシュは顔をしかめる。あんまりな屈辱で、アッシュの 自尊心はずたずたになっていた。 複製品に、ここまでされるとは! 「ほらよ」 それを知ってか知らずか、まるでゴミを道ばたに放るかのように、ルークはアッシュ を投げつけた。 「…てめぇ、まちやが」 「アッシュ、戻りましょう!」 瞬間、叫ぼうとするアッシュを制したのは、ナタリアの心配そうな声色だ。苛立つア ッシュを見つめるナタリアの瞳は、声と同じく心配そうな色をしている。後から続いて きたティアは、何事かとひどく困惑していた。踵を返して去りゆくルークの背中を、お よぐ視線で見つめながら。 音機関の旋律は、断末魔のようなひしゃげた悲鳴をあげて止んだ。 アッシュのほおには痛々しい青あざやらが残っている。それらは複製品につけられた もので、アッシュにとっては屈辱以外の何でもない証だ。よほど自尊心が傷つけられた のか、宿屋に着いてからも、一度もアッシュは口を開かない。俯いた顔はひどく青白く 病人じみていて、ナタリアを一層不安にさせた。 「大丈夫ですか、アッシュ」 「一体何があったの?」 心配する声と問いつめる声。それらにもアッシュは反応せず、瞳には光が宿らない。 「…大丈夫か?」 労るように、ドアの向こうからガイが現れた。手にしたカップからは柔らかい湯気が たちこめ、ガイの姿を曇らせる。それを視界に入れた途端、アッシュはやっと重い口を 開いた。 「…が、あった」 「え」 「…俺が誘拐されてから、何があった!! ガイ!!」 ガイの手からはするりとカップが落ち、湯気はガイをすっかり隠した。 黒ルク13話目です。 やっとここまできました。さらに捏造になります。覚悟をお願いします。 そしてボケ脳のせいで書き直しです。