呪縛によって締めつけられる 「…よく、耐えられますね」 汗にまみれた体を見て、その人は言った。ルークは何が、と問いたくなったけれど、 最初の言葉を発音する口の形だけ作ってやめた。 この関係は利害の一致によって成り立っている。だからそれ以上を求めてはいけない ことをルークはようく知っていた。これ以上知っても知られても、やりにくいだけだと いうことも。 それに何より、持っていくものなんて今以上欲しくなかった。 「別に」 「…決めたことだからですかね」 「…そうなんじゃねえの」 ルークの言葉をまるでフィルター越しに聞いているように会話する人物、死神ディス トことサフィール・ワイヨン・ネイスは、ルークにとって珍しい人間だった。 自分という存在を生み出したひと。 けっして好ましい訳じゃない。けれど、嫌悪感を抱く訳じゃない。ただ、そこにある 人物だった。アリエッタともシンクとも、あの人物達とも違う。 「今日はここまでにしましょう」 僅かに口角を曲げて、ディストは言った。それだけ聞くとルークはさっさと立ち上がり 部屋を出て行った。 「…私のしたことは、正しくは、なかったんでしょうね」 取り残されたディストは、随分久しぶりにサフィール・ワイヨン・ネイスになってこ ぼした。サフィールのその言葉は、誰にも届かず上空でぱちんと割れた。 ルークが外へと出ると、僅かに雨が降り出していた。淀んだ空から降る雨。それ自体 が汚染された物質のようで、目を背ける。これは雨と呼んでいいのだろうか。バザール も何もかもその汚染されたような物質を避けるように閉まっていた。 こども達も恋人達も老人達もいなくて、町全体が殺されたのではないかと思うほどに 静まりかえっている。 ルークは戻らなかった。上空を見上げ、落ちてくる物質をまっすぐに見つめる。ルー クの目から見ても物質は雨と呼んでいいのか分からないものだった。 現象的には雨と呼ぶしかないそれは、ルークの体を滑り落ちる。 濡れた頬が煩わしくて、ふいに頬の皮を引き裂きたくなった。体が、邪魔だ。 全て捨てたくなって、近くの壁を蹴る。すると本格的に降り出した雨の音しか聞こえ ない中、旋律が響きだした。 近くに捨てられていた、音機関のものだった。壁を蹴飛ばした拍子に、動き出したら しい。 ゴミだっただけあって紡がれる旋律はところどころ抜け落ちていて、音自体も歪んだ りひしゃげたりしている。お世辞でも綺麗とは言いがたい。 「…不細工な音色」 吐き捨てるように言って、一瞥。雨の音の方がまだ綺麗だった。 不細工な旋律と降りしきる雨の中、そこに立っているしかできなかった。 記憶が、ルークを伽藍締めにして離さないから。 黒ルク十一話目です。この話は久しぶりに続く場面の話です。 なので多くは語りませんが、これからどんどん内容について行きがたい話になると思 います…。捏造もいいとこだぜ!!