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ルーク・フォン・ファブレは二度生まれた。 一度目は光の下で、その存在を祝福された。長い間母の胎内で慈しまれ、周りの皆にその誕生を心待ちにされた。生まれる前から、大切に大切にされていた。 産道を通って光の元に生まれてからも、そのことは変わらなかった。その身に与えられる肩書きに合うよう厳格に躾けられ、けれど玉のように大切にルークは慈しまれ、愛された。 そうやって、生きていた。 しかし、すぐに二度目は来た。 今までルークだったものは、ルークではなくなった。 聖なる焔の光は、残骸になった。 それは、細胞の一遍たりとも世界に存在していなかった。母はいない。ならば当然父もいない。彼の基礎になるものは、一つだけ。 けれどその一つが、それを作ったわけでもなく。一つは一つでしか有り得なくて、一つは分裂なんてできない。けれど、一つから生まれた。 それの生まれ方は、生物の生まれ方としては確かに間違っていた。 守るための胎や羊水なんてものは存在しない。産道も通らない。成長するまでの間、慈しまれることも、疎まれることさえもない。 それは忽然と、生まれた。 一つ、染みが落ちた。 綺麗に、整った製図の上を、静かに汚した。 (俺は、何のために) 思い返す。意識がぼんやりとする。意識が薄い薄い膜になって、自分の体を離れ、水のように張っている気がした。それをひたすらぼんやり眺めている、そんな気分だ。もう意識というのかさえ彼には不明瞭で分からない。 真っ白な中、ただ自分から遠く離れた意識―何かだけがある。記憶とも言えるのだろうか、それが膜の上をひたすらに通っている。けれど、それらの大半は「ルーク・フォン・ファブレ」の為にあるものだ。正しく「それ」の為にあったものなんて、何もない。 また、泣きたくなった。 柔らかな声が聞こえる。 それは自分のためのものだったろうか。自分の手にあるものだろうか。 |