さあ、幕をあけよう!!
          ここからはじまるは、何とも物悲しい喜劇!!
          いくらでも笑うがいい! それは全く、あなたの自由。
          どんなにか美しく、醜いこの浮き世。

          仮面を外した素顔、とくとご覧あれ!!!




                                  ここはとっくに舞台の上で





          くつくつと、彼は笑い始めた。それは今までの穏やかな笑い方とは全く違うもので、
         皆は訝しむような視線を彼に投げた。それでも、彼はそれを止めない。
         「ルーク? どうした」
          の、とティアが続けようとしたが、それは叶わなかった。ティアの頬を、鈍い銀の刃
         がかすったのだ。それはティアの白い頬の皮を少しと、長い髪を一房切った。数秒後、
         ティアの瞳が見開かれるのと同時に、切られた場所から赤い血が滲んだ。暗闇のなかで
         鈍く剣は光り続ける。
         「ルー…ク?」
          全く意味が分からなくて、ティアに出来たのは唇から彼の名前を紡ぐことだけ。それ
         だってやっと出来たことだから、彼女らしくない呼び方だった。
          皆も、何も出来ずにただそれを見ていることしかできなかった。ルークの笑みはいよ
         いよ深くなる。皆の脳内は慌ただしく動く。今現在の状況を整理するためだ。けれど、
         さっぱり答は出てこない。いくら考えてみたって、今までの状況下でルークがそうす
         る必要性が全く見あたらなかったのだ。




          今現在、皆は―ルークの被験者であるアッシュを含めて―明日のことについて話をし
         ていた。明日いよいよ、ヴァンとの決着を付けるときだからだ。それは、同時にあの日
         からのことに対しての、決着を付けるときでもある。
          だからこそ、それぞれがそれぞれの腹の内をさらけだしていた。それは今までで思っ
         たことだったり、これからへの決意だったりと様々で。そしていよいよ、この中では一
         番強い感情を抱いているであろう、ルークの順番だと思ったとき、冒頭の出来事が起こ
         った。



         「…はははっ!!」
          皆が呆然としていると、今度は高らかに、ルークは笑った。その表情は心底愉快そう
         だが、今までのルークからは想像も付かないものだった。よくよく見れば、澄んだエメ
         ラルドの奥に鈍く凶暴な色が見えた。
         「…お前っ!!」
          言ったのは、アッシュだった。けれどそんなことどうでもよさそうに、ルークは笑い
         続ける。より一層、おかしそうに。
         「何が、おかしいのですか?」
          不快と疑問が混じり合った表情で、ジェイドは問うた。静かな、冷たい響きだ。それ
         を聞いた途端、ルークの表情は一転した。ジェイドの台詞よりも、もっともっと冷たい
         表情。
         「…何がって、分からないのかよ」
          やれやれと、彼は頭を振る。それに合わせて、短い襟足が揺れた。その光景は見慣れ
         ているはずなのに、やけに皆の心を震わせた。

         「分からないって…」
          ティアの唇が、小刻みに震えながらやっと紡いだ。普段なら薄い紅色であるそれはひ
         どく血色が悪い。赤い血が白い肌の上を滑った。
         「はっ」
          ルークは吐き捨てて、立ち上がった。彼のブーツが乾いた音を立てる。そのままの速
         さで彼は剣を抜いた。
         「あんたらいい加減気づけよ。自分達が愚か者だってことをな!!」
          剣の切っ先は一つしかない。剣が一つしかないから当然だ。だが、不思議と皆は自分
         達の喉元に突きつけられている気がした。剣の切っ先は誰に焦点があっている訳でもな
         いのに。
         「ルーク!?」
          が、そんなことに思考を飛ばすよりも、皆はまず声を上げて彼の名を呼んだ。けれど
         それすら煩わしそうに、ルークは見下す。


         「あんたらわかってんの? 普通一回自分を見捨てた相手に心許すわけないだろ。レプ
         リカだからって見下すな!」 
          言うなり、ルークは地面を蹴った。元の位置から下がり、皆の表情がよく見えるよう
         になる。ルークは笑いながら、皆の表情を見た。視線は何かを探るように動く。

         「あの日から、あんたらはずっと俺の手のひらの中にいたんだよ。そんなに嬉しかった
         のか? 俺が素直になって、いいこちゃんしてるのがさ」 
          前半は楽しそうに、後半は侮蔑を含んだ声色で言う。ルークは利き手でない右手で己
         の髪を掻き上げた。短くなった故に、白い地肌が薄暗い中ででぼんやり浮かぶ。


         「髪を切って、償うって決めて…素直になって。なあ、楽しかったかよ? お前らの台
         詞でいちいち一喜一憂する俺を見て。お前らの欲は、満たされた?」
          儚げな表情で、(それは皆の知っているルークそのものだった)ルークは笑いながら
         言った。瞳の奥の凶暴さは、今は息を潜めている。
         「面倒くさかったから、それでもいいと思っていたけどよ…。俺はもう疲れた。お前ら
         のために生きるのも、我慢するのも」





         「…俺はお前らを押しのけて、自分自身のために生きる」
          もう一度、ルークの目に凶暴な色が息吹く。それは鋭さをいっそう増していた。






         「俺よりあんたらの方が愚かだな!」



  


          さあ、舞台に立とう!!
          操り人形の糸なんて、もうとっくに切れてしまった!
          生きたければ、
          そうでなければ、


          選択肢は、あなたの   自由!!










 
                                    真由羅さまへ、捧げます
             

          ※ お持ち帰り、転載は真由羅さまのみ可能です。









          アビス本編での黒ルークということで、書かせて頂きました。
          私自身、「短髪」を偽っている黒ルークというのは初めて書いたのですが、そんな黒
         ルークもいいなあと思いました。個人的にとても楽しかったです。
          自分では思いつかなかったと思うので、真由羅さまに感謝です。
          今回はあえて和解しないバージョンにしてみましたが、今度は和解したバージョンも
         書きたいと思っています。(むしろ、偽っている黒ルークという設定で色々書かせて頂
         きたいくらいです)

          もし気にくわない点等がありましたら、遠慮無くメールフォーム、bbs、拍手にお寄
         せ下さい。真由羅さまが納得いくまで、書き直すつもりです。



          回答と素敵な台詞、ありがとうございました!!