結局は人生なんてもの


         「俺はお前に全てを、奪われた!!」
          アッシュは叫んだ。悲痛な、聞いている方が締めつけられるような思いを。それはア
         ッシュという人間の全てだった。奪われた七年間に対しての全てが、今やアッシュの根
         底となって伽藍締めにしている。
          だからこそそれは、短絡的な感情も、複雑に絡み合った感情も、全てが交ざった叫び
         だった。きくひとの思いを沈めるくらいには、暗い。


         「お前に奪われた所為で、俺は、生きていくことだって!」
          それを、今まで黙って聞いていたナタリアの瞳から、ふいに涙が一粒こぼれ落ちた。
         アッシュ―本当のルーク・フォン・ファブレ―の叫びを聞いて、今まで押し込めていた
         ものが、全て溢れてしまったらしい。皆も、湿っているような締めつけられるような独
         特の空気を感じとって視線を下げた。たった一人を除いて。


         「…それで?」
         「は」
          視線を唯一下げなかったのは、複製品であるルークだった。アッシュのいう全てを奪
         ったルークだった。彼の瞳に宿る光はひどく冷たくて、アッシュの神経を逆撫でする。
         侮蔑の視線だと、理解したのだ。
         「なあ、お前は、俺それで俺にどうして欲しい?」
          ルークは、問うた。唇は緩い弧を描いている。薄い桃色。笑顔はひどく綺麗な絵画の
         ようで、世界からルークだけが切り取られているようだった。
 

         「お前の人生は、全てお前のものだろう。俺がどうこうする訳じゃない」
          それからルークは、忌々しそうにアッシュを睨みつけた。今度はあからさまな侮蔑の
         表情だった。それを見た瞬間、アッシュの頭に血が上る。それは急激すぎて、アッシュ
         の目をチカチカとさせる。じわじわとアッシュの心を色々なものが浸食していった。

         「奪っておいて、てめえはっ!!」
          もうアッシュはそれしか言えなかった。アッシュにはもう、それだけしか残っていな
         かった。ついに溢れたナタリアの嗚咽さえ、耳から通り抜けていく。心臓の鼓動がやけ
         に煩くて、手袋の中の手は汗ばんでいた。手は小刻みに震える。

          けれどルークは、侮蔑の視線を止めない。

         「生きたければ、好きに生きればいい。俺は止めない。本当にお前が奪われたくなかっ
         たのなら、どんな手を使ってでも俺を殺せば良かっただろうが」 
          形のいい、アッシュと全く同じ形の唇は紡ぐ。その一言一言は随分サラサラと紡がれ
         ていくのに、不思議と重くて、アッシュや皆の腹の辺りに石が入っているような感覚を
         残した。
          よくよく考えてみると、殺そうと思えばアッシュはいつでもルークを殺せたのかもし
         れない。七年間も待たなくたって。あんまりに拙くてあの弱い生き物の喉元か胸元をナ
         イフで切り裂けば、それだけで生は止まっただろう。どんな小さなこどもにだって、そ
         れはできることだ。

          けれどそれをしなかった。できなかった。
          七年間―それは決して輝かしいとは言えない、淀んだ感情や汚いことばかりだ―が、
         アッシュの脳内をぐるぐる巡る。それを止めるかのように、ルークの静かな声が凜と響
         いた。

          彼が紡いだのは。

         「好きに生きて、好きに死ね」

           突き放す言葉。

         「俺はそれを咎めないし認める。俺も、そうするから」
          言うなり、ルークは剣を抜いた。その動作はやけに丁寧で、不思議と気品すら感じさ
         せる。研ぎ澄まされたそれは、反射して光を放った。攻撃的且つ暴力的で、命を奪うも
         のとして上等な光だ。
          それと同じ光を放つのは、ルークのアッシュより僅かに色素の薄い瞳。

          ルークのそんな瞳は、告げていた。
          それを皆に認めると言うことは、同時にルークがルークであることを認めさせるとい
         うことだと。皆が自分の掲げて、信じるものを貫いて生きるように、ルークもまたそう
         やって生きるということの、表明を。
          それは何とも潔い決別だった。 
          ルークはルークであって、アッシュではないという。ましてや、誰かの人形でもない
         という。



          ルークは緩慢な動作で、剣の切っ先をアッシュへと向けた。
          いっそ美しいほどの決別。

          彼は、彼として生きると決めて。


         (だから、俺はお前が邪魔になったそのときは)

          容赦なく、その体を物質へと変えるだろう。
           妙な確信が、ルークの中にはあった。それはルークが抱いている中では最も純粋で真
         っ直ぐなもの。それをずっと持ってはいたけれど、今一度確認すると不思議に心地よか
         った。


          彼は、世界を切り捨てた。


                       (おまえがえらぶそのみちを、おれはとめることなんて)














                                      灯月さまへ、捧げます

           ※転載、お持ち帰りは灯月さまのみ可能です。




           これは、何バージョンか考えてあって、(短髪な黒ルークバージョンや、対ヴァン師
          匠やPTメンバーや)その中でこれにしてみました。
           一番黒ルークなのは恐らく、短髪です。笑顔で罵ります。
           後日、他のバージョンもアップできれば、と思っています。


           回答と素敵な台詞、ありがとうございました!!