例えばそれは、痛みだった。
          向けられる全てが、皆の中に痛みを生んだ。
          視線、言葉、頭の天辺からつま先まで。

          引き裂かれるような、痛みではない。でもそれらは確かに皆をじわじわと傷つけてい
         った。生まれてきたときの瞬間から今まで培ってきたもの、信じてきたもの全てを否定
         するように。




                                武器によって隠されていた
 



          嫌な臭いが充満していた。明らかな臭気ではない。が、皆が今まで出会ったことのな
         いようなもので、本能的な恐怖を呼び覚ます臭いだ。
          それを発していた場所からは離れたはずなのに、鼻腔の奥から離れず、煩わしくて気
         持ち悪かった。胃の辺りも、ムカムカとして喉元には何かがつかえてグルグルと回って
         いる。

          それら全てを起こした原因であるルークは、何も言わなかった。視線は虚ろだが、絶
         望しているわけでもない。誰かの所為だと責任転嫁するわけでもないし、許しを請うわ
         けでもない。ただ、黙って立っていた。凜となんて表現が似合いそうに。

          が、逆にその彼の様子は、皆の神経を逆撫でするものでしかなかった。どうして平然
         としていられるのか。彼の行ったことの所為で、沢山の人々が死んだというのに。可能
         性のある生命が、幾つも散ってしまったというのに。
          あまりに正論過ぎる正論を、自分達の中で皆は並べた。そしてそれは、ルークをもう
         一度まじまじと見た瞬間にぱちんと勢いよくはじけてしまった。糸が、切れる瞬間のよ
         うに。


          言葉が、並ぶ。非道だとか、人間としてどうなのかだとか、血も涙も無いだとか、そ
         ういう言葉達。激情のまま発せられたそれらは、一気にルークの回りを取り囲む。それ
         にほんの少しだけ、ルークは顔を顰めた。言葉は止まない。

         「…俺が」

          ルークは小さく口を開き、言葉を発した。それは酷く小さいものなのに、やけに皆は
         過敏に反応し、すぐに口をつぐんだ。
          ルークが次に口を動かす瞬間を、皆、息を潜めて待っていた。視線は期待している。
         ルークが紡ぐ、ある種の言葉を。


          けれどそんな期待、すぐに引き裂かれた。他の誰もない、ルークによって。


         「『俺が劣化レプリカで愚かだった為に作ったアグゼリュスでの罪は、命を懸けてでも
         償います』…とでも言えば満足か? オリジナルども」
          言いながら、ルークは目を細めた。酷く綺麗なのに、酷く濁った笑み。
          その視線に皆はたじろぐ。背筋の辺りで、何かが這うような嫌な感触がした。

         「なめてんじゃねえよ」
          彼は眉間に皺を寄せ、吐き捨てた。その様子に、皆の何処かへ行きかけていた意識は
         戻る。そして胸の内を占めるのは、腹立たしさと怒り。全身の血が、沸騰したような感
         覚すらした。

         「…何を!」
          一人が叫ぶが、ルークは興味なさそうにそれを軽く受け流す。一瞥だけした視線は、
         皆が発していた軽蔑の視線より、もっと怖いくらいに冷たかった。

         「お前らは、俺が泣き叫んでお前らの思い通りになるのを望んでいたんだろうが。けれ
         ど俺は望み通りに何てならねえ。なってたまるか。俺はお前らに糾弾されてあっさり変
         わるほど、綺麗でもないし純粋でもない」
          その表情は心底楽しそうだ。
          ルークのそんな様子を見て、もう一度皆の中に苛立ちが生まれるが、それを表に出せ
         るほどの気力なんて無かった。ルークによって、折られてしまったのだ。
          よくよく考えれば、確かに自分達は泣き叫び、許しを請うルークを期待していた。自
         分が間違っていたと、認める姿を。正論、常識なんてものを武器にして、意識の深いと
         ころではそれを求めていたのだ。

          はじめルークが紡いだ言葉を聞いたときに生まれた感情が、何よりの証拠だった。
          清々しい爽快感と、下に見て、満たされる欲。
          ルークはそんな汚い感情を、武器によって隠された感情を、暴いたのだ。

         「非道で何が悪い。俺は、存在自体が規格外だからな」
          そんな皆の心境を知ってか知らずか、ルークは嘲笑う。己という存在全てを。そして
         それは同時に、レプリカという存在を下に見るオリジナル達を嘲笑っていた。




         「お前ら、罪って言うのはな、償えないものなんだぜ?」

         「それを犯しておいて許しを請うなんて言うのは、馬鹿のすることだ。そんなの、自分
         が許されて楽になりたいだけだろうが」

         「俺は、楽に何てならなくていい。だが、請わない」 





         「さあ、好きなだけ俺を憎めよ」
         (ころしてしまいたいほどに)


          大声で、ルークは高らかに笑った。その響きは酷く残酷で、皆の正義に反するものだ
         ったけれど、誰も何も言えなかった。言えるはずがなかったのだ。



          例えばそれは、痛みだった。












                                      浅葱さまに捧げます。
           
          ※お持ち帰り、転載は浅葱さまのみ可能です。





          アンケートにお答え下さった、浅葱さまに捧げます。
          PTメンバーに対しての台詞ということで、あえてルーク以外は名前の表記をしてい
         ません。
          個人的に浅葱さまが下さった台詞、とても気に入っています。とっても素敵な台詞、
         ありがとうございました!
 
          もしお気に召さない点等がありましたら、遠慮無くbbsやメールフォーム、拍手等に
         お寄せ下さい。浅葱さまが納得して下さるまで書き直すつもりですので。

          アンケートにお答え頂き、ありがとうございました!