傷口えぐってキスをした 人が人を信頼するというのは、存外簡単なことなのだ。そして人が人を嫌いになるの は一瞬。信頼よりも簡単。 それをガイは知っていた。 「これ以上幻滅させないでくれ」 そう呟いた言葉は誰にだったか。ガイは呟いた言葉を、呪詛のように只己の内で繰り 返した。 ルークルークルーク。 可哀想な子哀れな子。他に信じられることの無かった子! たくさんの人を殺した、何とも愚かな子!! 人が人を嫌いになるのは簡単だった。その人の駄目な部分を見つけて、それがその人 の全てだと信じ込めばいい。ガイはそうした。そうすれば楽だったから。(その行動は みんなとっていたものだとガイは気付いていた) 実際楽だったし、それをとった所為で傷ついたルークにどこか喜びすら感じていた。 傷ついたルーク。見放されたルーク。可哀想なルーク。ああ愛しい子!! そしてそんなことを考える自分に吐き気がして、内心だけで、笑っている自分の姿に 唾を吐いた。そんな自分を嘲笑っている自分も、確かに存在した。 ルークのところに戻る、と告げた後に一人でいたとき、ガイは来るであろうルークの 様子を思い描いた。 うちひしがれているだろうか? あの瞳を絶望の色に染めて? そう思うと、背中の芯がじわりとしびれるような感覚に襲われる。 あの傲慢さを武器にして、また振り回すのだろうか? おびえながら? (ぎゅっと抱きしめたら、どんな表情をするだろう?) 俺のことを恐れるかもしれない。 (でもとびきり甘やかしたら、きっと彼は自分の傍にずっといる) 彼に傷を負わせたのは自分なのに、そんな彼を慰めている自分のビジョンばかりが脳 内に浮かぶ。ひっきりなしに。延々とループしてガイの心を震わせる。 それは悲しみであり同時に、世界の何も敵わないほどの甘美な歓喜でもある。 白雪姫の食べた毒林檎のように甘美なそれ。ルークを殺し、ガイを殺す毒。 自分はきっと、ルークを慰める。ガイの中で決定的なそれは、同時にルークの傷をえ ぐる。優しい言葉で、無理矢理かさぶたを作り、焦がすように消毒する。 ルークはきっとその事実に気付かない。只々ガイが優しいと信じ、絶対的な信頼を向 けてくれるだろう。 そう思うと、背中だけでなく体全体の芯が、この上ない甘美さにしびれた。 中途半端な癒しだと思う。 慈雨のようなキスを降らすと見せかけて、実際は只々己のために傷口をえぐり、また キスを降らす。その繰り返しの中で確実にルークはガイにすがるだろう。 ガイなら、ガイなら、と。 そしてそれが極上の幸福であり、ガイを満たす。 あまりにも不健全な幸福。 けれど、彼は迷わなかった。 (もしかしたら、他の選択肢が見つからなかっただけかもしれない、見えなかっただけ かも知れない) 彼は遠くない未来、来るであろう朱のこどもの傷口をえぐり、こどものすきな笑顔で それにキスを降らすのだ。 黒くてサディスティックガイさま。華麗でも何でも無い。 これを書いている本人もサディストですが、重度ではないと思いたい。でも泣き顔っ て無意味にどきっとするよね。ね?(言葉を求めないで) なんかこう、イジメとかはすきじゃないけどサディスト。うん。 君の手は汚れ〜とは全然毛色が違う話ですね。 ガイさまは公式腹黒だと思う。優しいガイさまも当たり前にすきですが。