ねえ、どうして、消えていくの? ねえ、どうして、忘れていくの? 消える忘れる 一年、たった。 あの、赤髪の、純粋すぎる、そして弱い少年が、いなくなってから。 いつも、笑顔で泣いているあの子がいなくなってから、一年も、すぎてしまった。 自分のすべてと引き替えで、明日を作ったあの子が。 約束したのに。何で、帰ってこないの? そればかり考えてしまう。疑ってはいけないと、思っているのに。ぼろぼろぼろぼろ 醜い、嫌な感情ばかりあふれ出てくる。 聞こえないように呟いた告白とか、最後に見た表情とか、一番最初にあった生意気な とことか。すべてフラッシュバックしては、彼女の脳内をぐちゃぐちゃにする。 これは、罰なの? 必死に問いかけてみる。答えてくれる人はいないのに。 「ねえ」 透き通るような声で、歌を歌い終わった彼女は、自分の後ろに並んでいる人々に声を かけた。自分の中でカタカタカタとうごめくものを感じる。自分は今、きっと一番触れ てはいけないとこに触れるのだろう。 自分にとっても、―みんなにとっても。 「どうしましたの? ティア」 「これは…罰なのかしら」 その言葉を吐いた瞬間、空気が一気に変わった。湿った、俗に言うウェットな雰囲気 から一転して、触れただけでそのまま人を殺せるような、ピンと張った糸のように。 ある人は瞳孔が開き、ある人は息をのみ、ある人は体を強ばらせてある人は僅かに表 情を変えた。 「何を…言い出すのですか?」 不安げに、けれどどこか確信をついたように問いかける人に、彼女は返す。 「あの子が帰ってこないのは、私たちのやったことの、報いかしら」 記号のように彼女は喋る。けれどその表情は無機質というわけではなく、瞳の奥は暗 い暗い闇と消化しようのない苛立ちを隠していた。 「私たちは、知らなかったとはいえ、散々痛めつけた。責任を押しつけて、逃げた」 「あの子は何かも許したように笑っているから、気付かなかったけど、普通なら、あの 子は怒って良かった。私たちは私たちが責め立てたことをどこか同然だと思ってた。 一度も呼吸をせず、歌うように彼女は紡ぐ。 「いなくなってから気付くの。ずるいわよね。謝りようが無くなって、責める人がいな くなってから認めるなんて」 「狂っていたのよ。あの子の環境は。守るためと言えば聞こえは言いわ。けど、あの子 は何も見たことがなかった。―だから、騙された」 「私たちは隠しごとがあって、それを当然だと思っていて、それなのに、あのこにはす べてさらけ出せと言った。自分達は、さらけ出さないのに」 「ティア…」 一人はどこか思うところがあったらしく口を開いた。けれど彼女は口を閉じない。 「私たちは七歳の子供に、押しつけたのよ。あの事件のすべてを」 それだけじゃない、それだけじゃないんだ。彼女はそう思う。 彼はそれを聞けば、また当たり前のように笑い「俺が悪いんだから、仕方ない。俺が 何も知らなかったんだから、俺が悪いんだよ」と言うのだろう。 彼女にはそれが容易に想像できた。 違う。彼は、誰よりも弱く、誰よりも幼かった。幼すぎた。 誰かあのとき、思いっきり抱きしめてあげれば良かったのだ。―子供なのだから。 でもそれすら、すべて分かった後の理論でしかないのだ。 「確かにあの子はしてはいけないことをしてしまった。でも、あの子があそこまで自分 を責め立てて、追いつめたのは私たちが突き放したからでしょう?」 「それなのにあの子は私たちを信じた。信じてはいけなかったかも知れないのに。純粋 すぎたから…、悪いのはすべて自分だと思っているのよ」 「それに…許すのよ。傷つけられたのに。傷ついて、罪を犯すと、いいんだ、大丈夫だ って許すの。…許してあげなかったのに」 彼は生まれた意味が欲しいと泣いた。価値が欲しいともう一度泣いた。必要とされた いと自分を殺した。 何度も泣いて、自分を殺した。 謝るほどに、ぼろぼろにした。 「…忘れていくの」 今まで、歌うように喋っていた彼女の声が、震えだした。 「ティア?」 一人の青年の気遣う声がそれに続く。 「私が忘れていって、消えていくの。あの子がどんどん。忘れても、消えて欲しくもな いのに。何で、大事なことなのに忘れていくの?」 ねえ、お願いだから会いに来てよ。罪は何時までも背負うから。 一人の、幼すぎる子供を、ずたずたに引き裂いたことなら、いくらでも謝りますから。 薄れていくよ。あの赤髪も。あの悲しそうに笑う笑顔も。声も、どれくらいの背丈だ ったとか、すべて。 薄れないでと、望むのに。 「…帰ってきて…」 彼の罪が幼さ故に何人もの人を殺したことなら、私の罪は、彼の存在をねじ曲げてし まったことなのだ。 彼女は、そう思う。只、素直なだけで良かったのに。 誰が、彼に彼を信じられなくさせた? 誰が、彼に自分の価値を教えてあげなかった? お願いだから、消えないで。 そう思うことしか、出来ない。 歯切れ悪く終わります。 アビスやっているとルークがすごくボロボロで不安定なのが分かります。何時人間不 信になるんじゃないかとハラハラしてました。 騙されたとはいえルークも悪いとは思うけど、誰か一人は、絶対的にずっとルークを 守って欲しかったなあなんて思いながら書きました。 ルークは絶対気にしないけど、ティアとかは絶対後で傷ついている。 決してルーク擁護とかじゃなく。 ちなみにティアルクは姉弟っぽいのラヴです。ラヴラヴではなく姉弟。家族みたいな。