欠陥品である僕らは満たすためだけに生きていて 「またフラレた」 ストローをガジガジかじりながら、ルークはガイに告げた。ぽつりと呟かれた言葉は 炭酸飲料に溶けこむ。 「ははっ、またかよ」 笑いつつ、内心ガイは舌打ちをした。ルークのうるせーなんていうむくれた声が、や けに遠く聞こえる。これで何度失恋をしただろう。 ルークは、愛情に飢えている。 それはもう、ルークが乾ききって死んでしまうのではないかというほどに。ひどく、 ひどく飢えている。 「…言う前にてか知って貰う前に、フラレた。彼女いるんだってさ」 「今度は、どんな人だった?」 「うーんなんつーか、しぶいひと。優しくってさ、ちょっとせんせいに似てた」 愛おしそうに、ルークは言う。口から離されたストローはルークの歯によって形が変 わっている。本来なら液体が出る部分はぺしゃんこだ。それはルークの心に似ているな んて詩的なことを、ぼんやりガイは思った。 「…そっか」 ほんの少し、ルークは俯く。そんなルークの頭をよしよしとガイは撫でた。ルークは ガキあつかいすんななんて言っていたけれど、満更でも無さそうに笑っていた。 ルークはよく恋をする。それも決まって、自分より年上の人に。本人は意識している かどうかは知らないけれど、その人達には大抵恋人や、ひどい時には配偶者や子供まで いる。(男か女かは、関係ない。ただルークは男女すら関係なく恋をする。初めて彼が 恋したのも、ひどく年上の「せんせい」だった) ガイは、その理由を知っていた。ルーク自身だってきっと気付いていないであろう理 由を、よく知っていた。 「ルーク、今日は俺の家に止まってけよ。新しいゲーム、買ったんだ」 「んーじゃあ行くかな。飯、おごれよ!」 「はいはいおおせの通りに」 ガイはひどく、泣きたくなった。 ルークの父親にあたる人は、財界でも屈指の権力者だ。ルークの母親は、そんな父親 とは釣り合わない、普通の女性で。 不倫、だった。 ルークの母親は世間に疎く、世の人々には「お人好し」だとか「間抜け」だと評価さ れる類の人種だった。(ガイはその頃の彼女を知らないけれど、何となくそんな想像は 出来た。今とは似ても似つかないけれど)そんな彼女が不倫だなんて行為に踏み込める わけはない。父親が、彼女を見初めたのだ。 彼女は彼が権力者で、正妻も子供もある身だとは知らなかった。恐ろしいほどの純朴 さで、思うことすらなかった。(人々はそれを無知と呼ぶらしい)彼女はただ純粋に美 しい、恋をして。 「ガイ、俺玉子丼が食べたいー」 「分かった分かった。じゃ、買い物して帰ろうな?」 「あ、じゃあお菓子も!」 途端にぱっと目を輝かせて、ルークは笑う。それがひどく幼くて、ガイはやはり同じ くらい悲しくなった。曖昧に頷くことしかできない。それはもっとガイの中の薄暗い部 分を助長した。 彼の事情を知る皆は、ルークの存在を「間違い」だと言う。彼と、彼の母親の所為で ファブレ家はおかしくなったと言っている。美しい恋が生んだものを、いとも簡単に捻 り潰して否定した。 けれどそれ自体が間違いだ。 ガイはギリギリと奥歯を噛んだ。目と鼻の奥がツンと痛む。 天上に輝く星は眩しい。 ルークの鼻歌は、そこまで届かないでガイの耳の置くだけで消えた。 最近三本立ての短編がとても好きです。 これくらいがすっきりしていていいのかも。