いたい 痛い。痛い。こんなにも痛い。 それでも、貴方のそばにいたいと願う。 いっそ、伝えてしまえばひどく楽なんだろう。でも、それは叶わないのだろう。 喉の奥に引っかかった言葉は、出せもせず、飲み込めもしない。だから異様なほど に吐き気が起こす。冷たい空気だけが、味方のような気がした。 アイツは今頃誰と話してんだろ。まあ、俺様には関係ないけど。 自嘲の意味を込めて、ゼロスは笑った。彼の網膜に彼女の背中が映った。意地っ張 りな、しようもない背中だ。 ―彼女は、泣いてないだろうか。 普段は呆れるほど強がってるわりに泣き虫で、意地っ張りで。そのくせ勘は鋭くて、 変なとこで鈍い。 ―嗚呼、愛しい彼女は。 また泣いていないだろうか。 自身は涙を拭ってもやれないくせに、拭う気すらないくせに、こんなことばかりを 延々考えている。もしも本当に神なんてものがいるのなら、そんな彼を愚かだと笑う だろう。彼自身が愚かだと思っているのだから。 フラノールに雪が降る。目的もなくひたすら降る。 大嫌いな、雪。気まぐれに手をかざせば、落ちてきたそれは手のひらであっけなく 溶けていった。手のひらには雀の涙ほどの水滴だけが残る。 生きているから。血が通っているから。そんな当たり前すぎて気付かないことを、 大嫌いな雪に教えられる。それもまた滑稽だった。笑い飛ばしたくなるほどに。 こんな風に、彼女の涙も溶かしてあげれたら。 今や思考は、完全に彼女に支配されているらしい。そんな自分を哀れむように、ま た笑った。 「…あ、ゼロス…」 幻だろうか。その彼女は目の前にいる。 愛しくて、愛しすぎる彼女。 ―嗚呼、やっぱり。 彼女は今にも泣きそうだ。 彼女は、本当に居たいはずの人と、一緒には居れなかった。自分じゃ、代わりにな んてなれるはずない。ないのだ。 けれど、せめて。 「どうしたのよ?しいな」 いつもみたいに笑って、軽い調子で話しかけた。 「別に…、何でもないよ」 溜息は、あっというまに広がった。隠そうとしても丸見えの心が、それを表している ようで苦しくなる。何だか、ゼロスまで泣きたくなった。 「…いっそ、好きになんなきゃいいのかな…」 あんまりに、残酷な言葉。ほら、やっぱり彼女は変なとこで鈍くて、鋭い。 「…話、聞くぜ」 本当は聞きたくなんてないのに。あんな奴やめて俺にしろよ、とか小説のワンシーンみ たいな台詞を言いたいのに。 自分も、どうしようもなく不器用なのだ。伝えたいことを、肝心の本人に伝えられない。 怖がって怖がって、逃げてばかりいたのだ。逃げてばかりいるのだ。 思考回路がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなかった。彼女の思考の中に、入る隙が ないのくらい、分かってたけど。分かっていたつもりだったのに。 ほら、俺、意気地なしだから。 抱きしめていた。腕の中に閉まっていた。彼女は、何がおきたか分かんなかったみたいだ けど。網膜に焼き付いていた背中は、見ていたときよりずっと小さくて薄っぺらかった。 しいなは、何も言わなかった。ただ、掴んでいた手を、そのままにしていてくれた。 それが、ただ嬉しかった。 十秒数えて、腕を離した。いきなり離されたから、困惑していたけど。頬は紅潮していて、 やっぱり泣きそうだった。 「聞いてくれてありがとう…」 とか言って、小さく手を振って、帰って行った。 ありがとうは、本当はこっちの方なのに。いっそ、伝えたら楽だったんだろうか。でも、彼 女は苦しむだろう。 ―嗚呼、さよならだよ。しいな。 走馬燈とでもいうのだろうか。あの日が鮮明に、そして早く流れていった。それはあんまり に残酷な光景で苦しくて、でも同時にひどく幸せだった。 こちらがわの世界に目をやれば、血の色で半分しか見えない。 血がなくても、霞んで見えなかっただろうけど。頬に、何かが落ちた。生ぬるい。ひしゃげ た嗚咽が聞こえた。 涙、か。 ―愛しい貴方は、また泣いているのか? 霞んだ世界で手を動かして、彼女の顔を必死に探す。 「ゼロス…?」 せめて、涙を拭おう。ずっとずっと拭えなかったけれど、今は不思議と迷うことなくすること が出来た。今までずっと逃げていたのに。 そうした瞬間、口元が、自然に微笑んでいくのがわかった。 彼女の泣き声が、どんどん強くなっていくことも分かった。 「阿呆だよ、あんたは本当! あたし、気付かなかったのに、あたしはあんたに、ずっと守られ てたのに! あたしはあんたが必要で、大事だったのに! あたしはあんたも、本当に大馬鹿も のだよ!」 その言葉が嬉しくてたまらなかったけど。 でも、もうさよならだよ。 「俺様も、大事だったからさ…。もう、泣くなよ?」 最後に貴方は笑ってくれた気がした。必死に、頑張って笑ってくれた気がした。 それだけがただ、嬉しかった。 「だいすきだったよ、ゼロスのあほう」 聞こえた言葉で、救われた気がした。 痛い。痛い。こんなにも痛い。 でも、貴方の傍にいれてよかったと思う。 最初よりゼロしい率を下げました。しいなはゼロスが大好きなのにロイドばかり見ていて 気付かない。フラノールのイベントから、やっと気付きます。 そんなすれ違い少女漫画な話。 ゼロしいに幸あれ。