幸せよどうか僕の近くで微笑んで くすぐったい感情ばかりが胸の内で広がっていく。 ああこれは幸せと呼べるのだろうか。柄にもなく考えたことは再度くすぐったい感情 の中に消えていった。 「どうした…?」 「別に、何でもねえけどさ…」 さっきまで自室の部屋で本を読んでいた。そこに自身の片割れと呼ぶに等しい存在が 現れ、何も言わずに背中にぴったりとくっついてきたのだ。 「あー、あったけー…。落ち着く…」 ルークはそう言うと一層アッシュの背中にぴったりとくっつく。 「…頭でもいかれたのか?」 「ちげえよ!」 失礼なヤツだなとぶつぶつルークは呟く。が、その口調は穏やかで背中からは離れよ うともしない。むしろ離れるどころか両腕をアッシュの腹の方に回して抱きしめた。 「…疲れた」 「…そうか」 ルークは今まで社交界に出ていた。本当は行く予定では無かったが、侯爵家が世話に なっている家の幼い子供が、どうしてもルークを見てみたいとせがんだのだそうだ。 ファブレ家のこどもふたりは、世界では英雄。 「アッシュはあったことあるんだろー? 元気な子だよな! 将来俺たちみたいになり てーんだって。そんなすげーもんでもねえのに」 アッシュは何の反応も示さないが、それでもルークは続ける。 「遊ぶのはいいけど疲れちまって。フローリアンといい勝負だな。あの子は。楽しくな いわけじゃねーけど、さすがに…疲れた」 ルークもアッシュも社交界とかそう言う類ものは好まない。アッシュは人との必要以 上の接触を好まない。ルークは人との接触は嫌とかではなく、むしろ人と話したりする のは好きな類かも知れないけど、どうもああいう堅苦しい場所は苦手だ。 「…だから、さ。帰ってきて、アッシュ見たらなんか…ほっとした」 アッシュの決して広いとは言えない、自分と全く同じ広さの背中にルークは頬ずりを する。それはまるでこどもが母親にするようなもので。 愛情や優しい何もかもが込められている気がしてアッシュは本を閉じて目を閉じた。 体温が溶けて溶けて、くっついているのかさえも分からなくなって、本当にくっつい て離れなくなる気がする。 体が溶け出して、同化するような。 「…なんか、幸せだな」 「何いってやがる」 「当たり前みたいに、アッシュがいて、傍にいられる」 幸せなんだ、と紡ぐルークの口調はどこまでも優しく一点の曇りも見あたらない。 これほどまで世界に美しい感情があるのだろうか。 ルークは幸せをアッシュそのものだという。けれど、そう思っているのは本当にルー クなのだろうかとアッシュは思う。 ルークがいなくなったりしたら、自分はどうするのだろうか。 「知るか屑…」 それはルークに対してではなく、自分の一時の感情に対しての答えで。 傍にいればいい。ルークのいいように、当たり前に。 そうすれば。 「てめーは只のんきに笑ってりゃあいいんだよ」 幸せは彼の元で微笑む。 なんかすごい甘いものがかきたかった。でも私には無理だった。 慣れないことはするもんじゃないなと思った。