すてきなおうち

 とりあえず、話は一旦切り上げて、屋敷に戻ると、例の家の話が持ち出された。
「じゃあ、明日にでも職人に頼んで作らせましょう」
 メイドが運んできた紅茶を優雅に飲みながらシュザンヌは言う。ガイの膝の上のルー
クはのんきにおやつのクッキーとココアを堪能している。
「ほら、ルーク、口元についてる」
 帰ってきたばかりで少し紅潮している薔薇色の頬に、指を運びとってやる。
 ガイは実質ルークの親みたいなものだから、シュザンヌも侯爵もガイの口調も何も咎
めない。
「…お言葉ですが奥様、いくらルークが憧れているとはいえ…」
「あら、違うわガイ。実は、前々から考えていたの」
 ティーカップがカタンと音を立てる。ルークが少し傾けたのだ。

「アッシュが、今度高校受験でしょう?」
「はい」
 アッシュは、今通っている中学から行けるエスカレーター式の高校ではなく、ここよ
り遠い名門高校を受けることにしたらしい。まあ、そのあたりも彼らしいのだが。
「ここからだと遠いから、送り迎えをつけさせようと思ったのですが、アッシュがそれ
を拒んで…。本人は一人暮らしをすると、言っているのですが」
 それも、彼らしい。自立したいのだろう。将来のために。
「けれど、今までいつも使用人達が面倒を見てきたから心配で…。しっかりした子です
けど。それに、この辺には幼稚園もありませんから、どうしましょうかと考えていたの
です。だから今日ルークがああいうおうちに住みたい、って言いましたから…」
 事実、屋敷は広いがこの近くには学校や幼稚園は少ない。
 アッシュの通っている学校も、一番近いがそれでも片道30分はかかる。

「…二人だけで住まわせる気ですか?」
 シュザンヌは健康体とは言えないし、箱入りだから家事なんてものは出来ないだろう
しメイドや使用人と一緒にするとしてもアッシュがそれを望まないだろう。

「いいえ、もちろん、あなたも一緒です」
「…はい?」
「あなたとルークを離しては、ルークが寂しがります。ルーク、あなたもガイと一緒に
ああいう家に住みたいでしょう?」
 クッキーをほおばっていたルークは、母親に急に話を振られた所為か少し戸惑ってい
たがすぐ返事をした。
「うん! 俺、ガイと一緒に住みたい!!」
 膝の上のルークは、ガイの方を見上げる。
 何処で覚えてきたのか、いわゆるおねだりに入っている。
「なあなあガイ、俺ガイと一緒がいい! だって俺、ガイ大好きだもん!!」
 
 何回も名前を連呼され、とどめに大好き。こういわれてしまえば、もうガイは何も言
えなくなる。
「…わかりました」

「よかったわ」
 にこにこ笑っているシュザンヌと、きらきらと嬉しそうなルーク。この二人には一生
勝てないのだとガイは思った。

 すてきなおうちに、胸を弾ませながら。