お兄ちゃんの長い半日 何で、俺はこんなことをしているのだろうか。そうアッシュは頭の中でその考えを往 復させる。 右手にはガラガラ。―ルークのお気に入りの星柄の―背中にはおんぶひもで繋がれた ルーク。 …ガイのせいだ。ひとしきり往復した後、自己完結。 今日は師匠も来ない日だし、めぼしい本も見あたらないから暇だった。何せアッシュ といえば、することはそれくらいしかない。 だから、たまにはと弟の部屋に向かったのだ。そうして少し構っていると、ガイが颯 爽と現れ、いつものように、アッシュからすれば腹が立つほど爽やかなあの笑みを浮か べた。 「お、アッシュ。弟に構うのは良い心がけだな」 煩いヤツだ…。正直にアッシュはそう思う。多分、この屋敷内でルークがいちばん懐 いているのはガイだろう。アッシュがルークをだっこしているのに、今までおとなしく 抱かれていたルークはガイがくるなりそっちに手を伸ばした。 なんとなく、悔しい。自分が血を分けた兄だというのに。 正直、アッシュはルークが大事だったし、もっと構いたいと思っていた。 周りには年上ばかりだったし、ここまで幼い、しかも自分の弟だということもあって かはやく成長してもらって色々教えたりしたいと思っている。 けれど、ガイがいくら父親に任せられたとはいえ、べたべたとルークにくっついてい るものなのだから、アッシュとしてはタイミングがない。 「でもあんまり構い過ぎるなよ。俺の仕事、ルークと遊ぶ時間が減るだろうが」 そう思っていると、本音とも冗談とも取れない台詞―恐らく、むしろ確実に前者だ― を言い、ルークをそっとアッシュの腕からさらっていく。 ガイの緩みっぱなしの頬と、ルークのかすかな笑い声がどちらも混じり合って、アッ シュの何かを僅かに、けど確かに傷つけた。 「そうだ、アッシュ。ちょっとこっち来い」 ルークをゆっくりベビーベッドに下ろすと、アッシュに手招きする。 なんだと思いアッシュが近寄ると、片手に、ルークのお気に入りのガラガラを持たせ られる。そしてそのまま手早くおんぶひもとともに背中にルークが。 「…なんのつもりだ」 「俺さ、今日半日休暇をもらったんだ。それで、俺が帰ってくるまで、ルークの面倒見 ててくれよ。今日お前、何もないだろう?」 よし、という声と共に少しだけ背中を締めつけられる感覚がする。 ガイはそのまま軽くアッシュの肩を叩き、アッシュと向かい合うようにして。 アッシュを見た瞬間、吹き出した。 「に、似合わないな…」 一応吹き出したことを失礼だとは思っているのだろう。必死で笑いを堪えているがそ の表情は完璧にひきつっている。それを見るアッシュの眉間の皺は普段の五割ほど増し になっている。 「てめえがやったんじゃねえか」 けれどガイの言っていることは事実だった。深い眉間の皺と、きりっとした表情。 プラスしていつもの言動と態度。 そんな生真面目なこどもの手には大分ファンシーなガラガラ。背中にはおんぶひもで 繋がれていて、これまたファンシーな柄のブランケットに包まれている赤ん坊。 完璧なミスマッチなのは誰の目にも明らかだ。 これを似合うと言いそうなのは、全世界探してもアッシュに心酔していて、婚約者で あるナタリアぐらいのものだろう。 「ま、まあ任せたからな!!」 怒気を完璧にはなっているアッシュから逃げるようにガイは去っていった。 どうしたものだろうか。 自分は正直そんなに赤ん坊に詳しくないというのに。 そう小さく、子供らしくない溜息をついた。 お兄ちゃんの、長い一日が始まる。 すごく長くなりそうなので一旦切ります。 アッシュお兄ちゃんの奮闘記。 ロマンティスト〜のガイがくまを買っているときのアッシュサイド。