そしてロマンティストは笑う


 ルークの面倒を見始めてから、三ヶ月ほどたった。
 ルークのおかげか、前よりもアッシュとぎくしゃくしなくなってきた。いいことだと
ガイは思う。
 だんだんルークも成長していって、その変化を見るのが毎日楽しい。
 けれど、あまり手がかからなくなるのは悲しい。
 …もしかしたら、自分は親ばかなのだろうか。ふいにそう考えたが、ルークが可愛い
からいいや、なんてこれまた親ばかな理由でその考えを放棄した。

 まだ落ちかけている瞼を起こすため、冷水で顔を洗う。目がはっきりと開いていくの
が分かった。
 自分が今まで寝ていたベッドの上にある、大きな包みを見て微笑み、ガイはそれを手
に取った。

 ガイの部屋は、広い屋敷内でもルークの部屋の隣にある。ルークが何時夜泣きしても
ぐずってもいいようにだ。本来はここはメイド長の部屋になる予定だったが、リウマチ
が原因でやめてしまったため、ペールと同室だったガイは、ルークの面倒を見るかわり
に此処になった。
  さすがメイド長の部屋になる予定だった部屋なだけある。
 多分、使用人の部屋の中ではいちばん広いだろう。たまに他のメイドや使用人に羨望
の眼差しを向けられるが、ガイは気にしていない。
 どんなボロ小屋だろうが、ルークの面倒が見れて近くなら何処でも良かった。

 ちなみに、ルークの兄であるアッシュの部屋はルークの部屋の向かいだ。
 泣き声で勉強に集中できないだろうから、アッシュの部屋は別の部屋にするかと父親
に言われていたが、「別に構いません」と、10歳とは思えないほどの貫禄で丁寧につ
っぱねていた。


「ルーク、きたぞ」
 ルークの部屋にはいる。背中にさっき手に取った大きな包みを隠しながら。
  赤ん坊はガイが来たことに気付いたのか目をぱちんとあけた。

「おはようルーク」
 包みをベビーベッド近くの小棚の上におき、ルークを抱き上げおはようのキスを頬に
する。彼の姉が生前、ガイにしてくれていたことだった。
 赤ん坊は目を細め、小さい紅葉に似た手をガイの頬に添える。それが嬉しくてガイの
頬は緩む。はっと気がつくと、ルークをベビーベッドに戻し、あの大きな包みをルーク
の前に出す。

「ほうら、プレゼントだ」
 この前、半日だが休暇をもらって街にいった。ちょうどアッシュが暇をしていたとき
だったので、アッシュにおんぶひもをつけて片手にガラガラを持たせてやった。
 ルークの世話の為なのだが、あのきまじめなこどもがその格好をしているという事実
はガイにかなりの笑いを運び込んだ。まあ、自分がやらせたのだが。
 そのせいでアッシュの眉間の皺は三割増だったが、まあいいだろう。アッシュも弟の
世話はまんざら嫌ではなさそうだったのだし。

 何故街に行ったのかというと、ルークのためだ。ルークが生まれてから、やっと三ヶ
月たった。これからどんどんものを覚えるこどもに贈りものがしたかったのだ。
 屋敷につとめ始めたときから貯めていた貯金を用意して。正直、ガイ自身物欲はあま
りないほうで、これといって欲しいものもなかったので、ルークのために使おうと思っ
たのだ。
 ショーウィンドゥを見続けていると、柔らかい色調で統一されたベビー用品店が目に
入った。見た目も内装もかなりファンシーで甘ったるくて、ガイ一人ではいるのはさす
がにためらわれたが、ガイにとって絶対であるあの赤ん坊の笑顔を思い出し、意を決し
て中へと入った。

 早い時間からいったせいか、幸い人はあまりいなかった。店主は意外や意外。ペール
よりも年老いた男性で、白髪と肌に刻み込まれた皺。だが老眼鏡の奥の瞳は何処までも
穏やかだった。
「何か、お探しかい?」
「あ、ええと、赤ん坊のおもちゃなんですけど…」
 それをいうと店主はゆっくりと微笑み、棚の下をあさりはじめた。

「そのこは男の子?」
「はい。俺が面倒見てるんですけど…」
 すっごく可愛いんですよ、と続けると店主は目元の皺を一層深くし笑った。
「…案外、こんなのがいいかもねえ」
 そして取り出したのは、少しベージュよりの白の、くま。

「…くま?」
「これはね、赤ん坊が生まれたときの身長と体重のくまのぬいぐるみなんだよ。注文を
受けてから私が作るんだが…。くまの右足に名前、左足に誕生日を入れるんだ。丁度、
金の刺繍糸で」
 独り言ののように続ける店主を見届ける。ガイの心内では、もう決まっていた。

「それ、お願いします」
 アッシュあたりにいえば、「女じゃあるまいし」と言われるかもしれない。けれどガ
イはこういうのは嫌いではなかったし、何より記念になる。
 確かにくまのぬいぐるみ、なんて男の子は好まないかも知れないけれど、きっとシュ
ザンヌはルークがそれに興味が無くなっても飾ってくれるだろう。
 
 驚くべきことにガイはしっかりルークがうまれたばかりのときの体重を覚えていて。
 店主に告げた後、やっぱり自分は親ばかなのかも知れないと小さく思った。
 曰く、明後日ぐらいには仕上がると言うことだった。そして仕上がって取りに行った
のが昨日。
 確かにそれを持ってみると、保育器から出てきたばかりだったときのルークの重さを
思い出させた。店主に代金を払い礼を告げると、ガイは軽い足取りで屋敷に戻った。

  
「これはな、ルークが生まれた記念なんだよ」
 分かるはずないと思いつつも、ガイは幸せそうに、赤ん坊に向かって言葉を紡ぐ。
 ルークはというと、ガイが持っているプレゼントに興味津々といった様子で視線を向
けている。
 
 包みを開いて渡してみると、きゅっと、いつもガイの指を握るように小さな手でそれ
を握った。そしてしばらくさわったあとで、うでを使って抱きしめた。

 とりあえずは、大成功。

 そう思い、ロマンティストは笑った。





 ガイさまはロマンティスト。ルークはそんなガイさまに育てられたからやっぱりロマン
ティスト。
 ロマンティストは遺伝します。(世界でいちばん優しい音楽よりv)
 くまのぬいぐるみがほしい。(お前が欲しいだけか)