十四歳のお父さん ガイラルディアは貴族の息子で、姉たちと幸せな暮らしをしていた、ごくごく普通の 子だった。 しかし、彼が十三歳になる少し前、両親と姉は一緒に旅行に行った時飛行機墜落事故 で死亡。生き残ったのは、彼の家では彼だけ。 そのあとは、使用人で親しかったペールに引き取られ、名前も「ガイ・セシル」にな ったが、十三歳になって少したった後に、ペールが今度つとめることになった屋敷で、 一人息子の遊び相手として一緒に暮らすことになった。 そこにいた一人息子というのが、九歳のくせにやけに大人びた物言いをする子で、普 段から人に好かれるガイにしては珍しく、折り合いがいまいち悪かった。 一人息子の名前はアッシュ。歯に衣着せぬ物言いをする子で、視野も広く、いわゆる かわいげのない子供だ。まあ、ごくごくたまに、ガイにも可愛いところは見せたりもし たが。ごくごくたまに、なので、それが好感に直結することはなかったが。 遊び相手といっても、アッシュの剣の稽古はいつもヴァンという有名な剣の師匠がい たし、アッシュはその頃の子供がするような遊びはしない子供だった。 だからたまに珍しい本を持っていってあげたり、わからない勉強を教える程度の仲だ ったから、仲良くなる機会なんてなかったのだろうけど。 そんなガイの世界が変わるのはそう遅くはなかった。 ガイが入ってすぐ、アッシュの母親が子供を身ごもったのだ。アッシュも妹か弟がで きるかも知れない、とアッシュにしては珍しく、そわそわとしていた。 けれど予想外だったのが、このあとだ。 元来からだが丈夫ではなかった母親は、臨月を迎える前に出産してしまった。 なんとか子供も母親も無事だったが、こどもは未熟児、母親は子供を育てるどころか 落ち着くまで入院するハメになってしまった。 子供は一週間と少し保育器に入れられ、ファブレ家―アッシュたちのもとへ返された。 子供は男の子で、ルークと名付けられた。未熟児故体は小さく、どことなく不安にさ せられる。 それはガイだけでなくアッシュも同じらしく、一日中ベビーベッドのまわりを回って いた。 さらに予想外なことが、ガイに告げられた。 「すまないが、ガイよ。シュザンヌはとてもじゃないが、子育てできるような状態じゃ ない。アッシュの世話もあるのに悪いが、ルークを育てて欲しい」 はい?今なんて言ったのでしょうかこの人は。 ガイはあの日から二度目の誕生日を迎え、十四歳になった。そんな若造に、自分の大 切な子供、―しかも未熟児で赤子―の面倒を見させる気だろうか。 乳母はいないのか。この屋敷には。 そういうえばベテランのメイド長が、最近リウマチが非道くてやめてしまった。 けれど、なぜ自分なのだろうか。 「お前はアッシュにも気に入られているし、何より人好きされる。アッシュは頭も良く 利発だが、どうも子供らしくないところがある。だから、お前にルークをのびのびと育 てて欲しいのだ。メイドに任せるより、同性のお前の方が良いだろう。きっと弟がのび のびと育ってくれれば、アッシュも少しは子供らしくなるだろう」 どうやら伯爵は、アッシュを堅物にしすぎたところに罪悪感を感じているらしい。 だから、俺に。…でも、アッシュに好かれているというのは間違いでは?と思う。 たまに優しい言葉をかけてやっても、「馬鹿にするな」といわんばかりの目つきで睨 まれるのだから。 「…わかりました。やらせていただきます」 元々世話が嫌いなわけではない。 むしろ姉はいたが、年下は周りにいなかったし、アッシュはああだ。弟が欲しいとは 思っていた。それにプラスしてアッシュの性格が少し柔らかくなればいいだろう。 そう思い、ガイは引き受け、ガイの若干十四にしての育児が始まった。