ヒヤシンス



 花言葉は、同じ花でも色によって違う意味になる。


「…綺麗だねえ」
 ガラス製の深めの皿に浮かべた球根。そして、その上の花。水が張られた皿
には、球根の雪のように白い根がしっかりとその身を落としていた。
 小さな花が幾つもまとまり、その淡い色の花びらにかげを落としている。は
かなげな、しかし確かな存在感が、その花には感じられた。
 黒髪の彼女は、それにさっきからずっと目を奪われたままだ。
 宿屋に花があるのは、そう珍しいことではなかったが。


「ん〜?しいな、何やってんだあ?」
「!? ゼ、ゼロス!?」
 そう呼ばれた燃えるような赤い髪の持ち主は彼女は驚きように目もくれず、
彼女が目を奪われていた花を一瞥する。

「ああ、ヒアシンスじゃん」
「え、そういうのかい?この…花」

 それを聞いて、彼は花から彼女に視線をうつす。

「何!?名前もしらねえで見てたのか!?」
「だって…はじめて見たんだよ…。この、ヒアシンスって花…」

 彼は軽く溜息をつくと、自分の長い髪をわしゃわしゃとかき回す。
「…なんつーか…しいならしいっていうか…」
「…バッ、馬鹿にしてんのかい!?」
 彼女は顔を紅潮させ、ゼロスを怒鳴りつけた。
「いや、違うって」

 彼は自分の発言をフォローしようとしたが、あることを思いついた。


「そうだ!しいな、ちょっと来い!!」
「え?」
 赤髪の青年は彼女の腕をがっしりと掴むと、そのまま走り出す。彼女はその
訳が分からず仕方なしについて行った。

「え、ちょっとゼロ…」
 彼女が声をかけた瞬間、急に、彼が止まった。
「へ?」
 混乱して意識が飛びかけている彼女をおいて、彼は待ってろとだけ言い、煉
瓦製の建物に入っていった。



 そして、数分後。

「ほらよ!!」
「?」
 彼女に手渡されたのは、黄色いヒアシンスだった。
 さっきのものとは違う、黄色。
「さっきのはピンクだったよ?」
「あのな、花言葉はいろによって変わるんだぜ?」

「じゃあ、さっきのは?」
「んー、ピンクのは嫉妬とか」
 昔、誰かに聞いたとだけ彼は答えた。
「なんかの神話でもヒヤシンスのできたっていうヤツもあるんだぜ?」
「それも、誰かに聞いたのかい?」
 彼は軽く首を横に振った。
「いんや、これは俺様のハニ〜たちvから聞いたんだぜ〜」
 えばれない、彼女は心底そう思った。

 でも、そこでふと思ったことが。

「じゃあ、これは?」

 彼は、一瞬止まった。
 そして、小さな声で。



「?何だって?」
「聞こえなかったんならいいっつーの」


「?  ともかく、ありがとう」
 お金は、そう彼女が言いかけると、
「俺様お金持ちだし〜♪」
(どことはかなくムカツクのは何故だろう…)


「とにかく帰ろうか」
 彼女は大切そうにそれ抱え、歩きだす。










「黄色のヒアシンスの花言葉は、あなたとなら幸せになれる―」



「なんか言ったかい?」

「いいや。何も」



 彼女がいつか気づいたら、どんな顔をするだろう。
 その楽しみと、淡い思いは胸の中にしまっておこう―。

 そんなことを思いつつ、彼もまた彼女を追い、歩き出した。




後書き?
花言葉シリーズでございます。某掲示板にて投稿させて頂きました。
ゼロしいとゼロスというリクをもらったので両方くっつけたという荒技っぷりを発揮しました。
…甘いのかな。コレ。