秘密 彼女は寝室で休んでいる。と、執事が言っていた。 無理に起こす必要もないのだが、彼女のことだから、少し休みつもりでまた何もかけないで熟睡し ているのではないか。そう思ったので寝室へゆっくりと進む。 目的地の前に着くと、ゆっくりと極力音を立てないよう、ドアを開ける。 少しずつ開かれていく扉から、ほのかな甘い香りがする。 「リリーナ?」 届くか届かないくらいの声で声をかける。 案の定、彼女は薄地のシーツだけを腹の辺りだけにかけて寝ていた。 「うん…?」 まだ夢の中にいるのだろう、ゆるゆると開かれていく目を見ながらかるく彼女の肩を叩く。 「ほら、起きろ。風邪をひくぞ」 「あ…ヒイ、ロ?」 少しずつ覚醒した意識で俺の存在を確認したらしい。渇いた咽を使って精一杯声を出す。 「わたくし…寝ていたの?」 「ああ、ぐっすりな」 しばらく彼女の髪をわしゃわしゃと撫でていたが、ふと、彼女の手元にあるものが目に付いた。俺 が以前やった、くまとは違う…。 「それは…なんだ?」 「あ、抱き枕です。可愛いでしょう?」 確かに、抱き枕だった。JAP地区の昔の話にでてくるらしい、確か「カッパ」という妖怪を少女 向けにデフォルメされたものだ。触ってみると、ふわふわとした感じと、表面の適度に柔らかい毛の 具合が気持ちいい。 リリーナが気に入っているのも、正直こういうものに興味がない俺もわかった。 「買ったのか?」 「いいえ、違います。贈り物です」 なるほど。確かに彼女には時間がない。 だが、こんな少女趣味のもの誰が贈るのだろう。(自分がクマを贈ったことは棚にあげている。) 「…誰が贈ったんだ?」 「ああ、ドロシーです」 その答えを聞いた途端、目眩と寒気が同時に襲った。 ドロシー・カタロニア。彼女が正直苦手だ。いつでも「リリーナ様、リリーナ様」とハートを飛ばし ながらどこからかやってくる。本人曰く、リリーナが非道く好きらしい。 リリーナは「悪い人ではありません」と言っていたが、正直奴のリリーナへの執着っぷりは以上だ。 ストーカーや変態といってもおかしくない。(やはり自分のことは棚に上げる。) そんなドロシーの贈ったものなど、正直信用できない。 今までも媚薬の入ったクッキー、(これはかわりにデュオに食わせた。←最低。試作品だったらしく、 二十四時間で効き目は終わったがその時間内でも奴にリリーナを渡したらどうなるか分かったもんじゃな い。)盗聴器の仕掛けられた髪留め、(すぐに破壊した。)箱を開けた瞬間に、睡眠ガスが飛び出す指輪。 (その場に俺はいなかったが、SPに助けてもらい、何とか助かった。) そんな奴を信用できる方がすごい。信用できるのは、いくらそんな目に遭っても疑わないリリーナくら いのものだ。 嫌な予感ばかりが頭をよぎった。 「…ちょっと貸してもらっても良いか?」 「ええ、どうぞ。ヒイロも気に入りました?」 ボタンで出来たように見える瞳。 その片方に小さく指で触れる。 …。 ぶち、ぐしゃ。 「きゃあ!ヒイロ、何をするのです!?」 リリーナが驚くのも無理はないと思ったが、言っても聞かないだろう。 だから言わずに二つのボタンで出来たように見える目を取ると、すぐさまつぶした。 「どうしたんですかヒイロ、せっかく気に入っていたのに」 ブツブツ言うリリーナの頭をくしゃりと撫でる。 「リリーナ…あのぬいぐるみに付いていた目は超小型カメラだ」 「ええっ?…でも、ドロシーがそんなことするなんて…」 「する奴だから言っているのだろう!!」 ついつい、声を荒げてしまった。 「す、すいません…」 リリーナがすまなそうに下を向く。 「…いや、悪かった。ところで…あれはいつもらったんだ?」 「えっと…」 指を折って数えている。 「確か…二ヶ月くらい前だった気が…、ヒイロが前に来た次の日に…」 二ヶ月間。二ヶ月…。 ぷっつん。 俺の中で何かが切れる音がした。 「待ってろ…リリーナ。三秒でやつを二度とそんなことできないようにしてきてやる…」 普段護身用に、と持たせているリリーナの銃を、ベットのすぐとなりにある棚の上から取り、安全装置を 解除しようとする。 「ま、待って下さいヒイロ!!」 リリーナの制止する声が聞こえるが、正直耳に入らない。 アイツは俺とリリーナのためにも一度痛い目に遭わせた方がいい。(結局自分のため) あの変態眉毛め…!! 「ヒイロ!!」 腕にピッタリとくっつかれる。 …聞かないわけにはいかなかった。 「落ち着いて下さい、ヒイロ」 「…わかった」 「貴方が怒っている理由は何となくわかるけど、ドロシーは本当は良い子ですもの。だから、そんなに怒ら ないであげて?」 「…ああ」 正直いまだに腹は立っているが、此処で無茶をするとリリーナが悲しむ。 今回は見逃してやろう。 「でも…せっかく気に入っていたのに…どうしましょう」 「…今度ボタンを買ってきてやる」 そう言うと彼女の表情が一気に明るくなる。 「ありがとうございます、ヒイロ」 その笑顔をみて、たまにはこんな日も悪くない、不覚にもそう思ってしまった。 その数ヶ月後、彼が他にも山ほど盗聴器や隠しカメラが付いたものを見つけて鬼のごとく怒るのは別の話…。 くまと悩みつつもうちにあるかっぱさんと一緒に。 くまはヒイロ氏の特権。 これ、微妙にギャグ…? ヒイリリはほのぼのが好きです。