その羽のような笑顔でどこかに連れて行って欲しい。
 その羽のような明るさで自分を照らして欲しい。

 望む二人は自分にも羽があることに気付かず、相手の羽しか見えてなかった。



「田島君は、鳥みたいに、どこまでも飛んでいける…」

 呟いた言葉は、ざあざあ降る雨の中で、まるで煙のように消えていった。止む気配を
見せない大粒の雨の中、彼女は先刻自分が鳥と称した人物をじっと見つめていた。
 胸の辺りでぎゅっと抱きしめているスコアボードに、髪の毛先や首筋からしずくが垂
れたり落ちたりする。
 そのたびに、紙は色を変え、インクが滲み不思議なグラデーションの色になった。

 今日はまだ、練習が始まらない。 
 というのも、日本独特の梅雨気候の影響だ。あまりの大雨に電車は一時ストップ。
 道路もふくらはぎのあたりまで雨水が溜まり、とてもじゃないがすぐ来られる状況で
はない。田島は自宅が近くなために来ることができた。千代は自宅は近くないが、今日
は雨がまだ小降りだった、朝早くに来たので大丈夫だった。
 
 グラウンドには、二人だけ。かといっても、千代はちょうどベンチの中で見ている。
 さっき百枝から連絡が来た。やはり、百枝も含めて皆遅れるらしい。
 よくよく着信履歴を見たら、不在着信が溜まっていた。どれも、百枝からだったが。

 彼女は先刻までグラウンドから水をかき出し、排水溝に流していた。普段は男顔負け
の体力と力をもつ百枝が、選手達が来るまでにやるのだが今日はそうはいかなかった。

 ウィンドブレーカーを来てせっせと動いていると、同じようにウィンドブレーカーを
来て、それがずぶぬれになっている田島が来たのだ。

「俺、やるから篠岡休んでろよ」
 いいよと彼女が遠慮がちに言うと、篠岡は女の子だろと真顔で言われて、赤面してし
まった。

「でも、悪いよ」
「あとでアイスおごってくれればいいよ」

 笑った。きらきらと。
 
 真っ白な、羽が飛ぶようだと彼女は思った。


 小さい体なのに、ものすごいはやさで動く。
 せっせせっせと。

 そういえば体力テスト、全校で一位だったんだっけ。
 となんともなしに思った。

 ああ、やっぱり彼は鳥なのだ。
 あの羽で、すべてをやってみせてのける。無邪気に、何ともないというように。


 あの人の羽が、まぶしい。笑顔が、眩しい。

 


 まだ止む気配を見せない雨の中、彼の羽が、彼女の目にはきらきらと輝いて見えた。








 実は田島版も模索中…。
 タジチヨ広まればいーなー。