花を植えましょう。



「ねえ、クラトス 」
「? 何だ?」
 ゆらゆら揺れるロッキングチェアーにもたれ掛かった彼女に、彼は聞き返した。

「花を、植えましょう」
 優しい表情。その視線は、優しい日差しの降り注ぐ庭に向けられていた。
 彼も、庭に目をやる。そしてまた彼もほほえみ、
「なんの花だ?」

 アンナは、彼の方に顔を向けると、嬉しそうに笑った。
「カーネーションを」
 そして、彼女は自身のふくらんだおなかに手をやり、壊れやすいものに触るかのように、優しくなでた。

「カーネーションは、母への感謝の意味があるらしいな」
 彼がうろ覚えではある知識を言うと、
「それだけじゃないわ。色によって愛情などの意味もあるのよ」
と彼女は自慢げに答えた。それを見ると彼は笑い、また返した。

「じゃあ、どれくらい植えるんだ?」
「できるだけ、たくさん。生まれてくるこの子に見せてあげたいの」
 そう言うとまた彼女はお腹の部分に視線を移し、目をつぶり撫で、想像した。
 庭いっぱいのカーネーションを。
 そしてそれは彼女の隣に寄り添っていた彼も一緒だった。自分と、アンナ、そして、そんな眩しく、温かい
庭を駆け回る自分たちの子供。

 なんて幸せな光景。優しすぎて、暖かくて。

「何色が咲くんだろうな…」
 誰に伝えるでもなく彼が言うと、彼女は彼に視線を合わせた。
「できるだけ、たくさんがいいの」
 赤や桃、白に黄色の色とりどりのカーネーション。
 幸せそうに自分の胸の前で手を合わせる。

 でもね、そう彼女はポツリと言った。

「できれば、青のカーネーションがいいの」

「何でだ?」


「青のカーネーションの花言葉は、永遠の幸福だから―」



 哀しみは半分。幸せは居る分だけ倍。
 分け合える人たちがいるから―。

「アナタにも、―この子にも、幸せでいてほしいもの」

 自分の幸せをアナタたちに。
 大切な人たちの幸福を望んで。
 哀しみに襲われても、笑顔を取り戻せるように。
 自分の価値を、忘れないように。


「それは、私も同じことだ」
 守りたい人たちがいる。
 自分より大切な人たちがいる。

「アナタでも、この子でもないだろう」
 そう言うと、彼は彼女の柔らかな髪を撫で、その手を彼女のふくらんだお腹に移し、置いた。
「え?」



「家族全員で、幸せになるんだ」

 空いている手で彼女の肩を抱いて、彼は優しく微笑んだ。
 そして、彼女の瞳から、ポロポロ。

「あ……」
 暖かい、涙。
 でもそれは哀しみからくるものじゃなく、愛する人の言葉と、心の温かさから自然と、流れ出て。

 彼女目からあふれてあふれて、止まらない、優しい、幸せな涙。
 ふいに、自分の内側を軽く、しかし確かに力強い衝撃を感じた。彼女の中にいる子が、まるで答えるよ
うに内側から蹴ったのだ。

「この子まで、言ってくれてるの…?」
 さらに、ポロポロ、ポロポロ。
 彼女の瞳からそれは、あふれて止まらなくなった。
 しばらくそうしていたが、不意に彼女は笑った。



「―クラトス」
「どうした」

「私、青いカーネーションはいらないわ。」
「?」

「だって、アナタと、この子がいれば、どんな結果でもずっと幸せと思えるもの―」
「―そうだな」




 もう、花言葉に頼らなくても、望んだ幸せは手元にあるから。

 たとえ、何があっても、その幸せが消えることはないから。




 だから、もう大丈夫。
















 ほのぼの目指しつつー。
 クラアン万歳。