グラジオラス 貴方に手渡すべき花はそれだと思うのだ。 グラジオラスの花束は、ひっそりと会うことしか許されない恋人達が会う時間を告げ る花束らしい。けれども、自分には関係ない。 ひっそり会う必要も、そんなことをする相手もいないからだ。 それに、そんな華奢な少女が望むようなことを、自分が望んだ覚えはない。 そんな言葉が彼女の中で反復する。 けれどそんな自分にこの花が、憲兵から手渡された。白く包まれた薄い包装紙には、 ベージュのかかったブロンドの髪が一本付いていた。恐らく女性からのものだろう。 同姓である自分に何故それを贈るかも、その理由も最初読めなかったが、数分後気付いた。 その花束を小さく抱きしめ、普段嗅ぐことになれてしまった硝煙ではない、花の独特 の香りを肺いっぱいに吸い込む。ほのかにグラジオラスではない、柔らかなフレグラン スの移り香がする。恐らく自分にこれを渡すように頼んだ少女がつけていたものなのだ ろう。 花束を胸の前から離すと、グラジオラスの名前の由来となった葉を掴み、ちぎった。 そしてとがった葉を自身のお世辞にも綺麗とは言えない、細いが重火器の扱いの せいでごつごつした指に近づけ、葉で白い指に傷を付けた。 ひりひりと、決して派手ではなく傷が痛む。 そしてそこからうっすら滲んできた血を、隣の指を使い、もう少し出すと、真っ赤なグラジオラスの花びらにつける。 血を付けたグラジオラスの花びらを一枚、血がしたたり落ちないようそっと離した。 そのまま花びらを自分の薄い桃色の唇に近づけた。乾燥したせいで少々それはがさがさしている。 近づけたまま、また血をこぼさないようにし、唇に花びらを滑られた。 乾燥しきった唇が僅かに潤うのが分かった。 鼻腔にわずかに血の匂いがする。 「すいません…出撃だそうですが」 今度は最近入隊したばかりの兵隊が入ってきて、自分にそう告げた。 それを聞くと、硝煙の匂いがする方へゆっくり歩き出す。僅かに血の滲む指先を、花束を包んであった包装紙で花の変わりにくるんで。 さあ、戦いの用意は整った。 グラジオラスの花言葉の通り、彼女は出撃する。