ガーベラ

「ねえ、セネセネ!!リッちゃんにお花あげようと思うんだけど、何が良いかな?」
「…花?」
 にこにこと笑いかけてきた彼女に彼は目を見張った。彼女の言い出しはいつも突拍子がない。それが
彼女の良いところかもしれないが、もう少し計画性を持って欲しい。そう色が黒く、線が細い彼は眉間
にしわを寄せながら思ったが、取り消した。
 実は彼女は確信犯なのではないか。この傍から見れば突拍子のないことも、実は彼女によって綿密に
組み立てられているのかもしれない。彼にそう思わせるほど、彼女はつかみ所がない人物なのだ。
 
「うん花!!リッちゃんにはいつもお世話になってるからね〜♪それに昨日、美味しいクッキーもらっ
たからお礼。セネセネ、兄妹なんだからリッちゃんの好みくらい知ってるでしょ?だから教えて!!」

 楽譜にしたらブレス記号どころか、カンニングブレスすらない勢いで、彼女は一気に喋った。こんな
はやいしゃべりを全て分かるようになった自分達も重症だな、そう思い彼は頷いた。
「まあ…それくらいなら」

「よっしゃ決まり!!さあ、あたしについてきなさーい!!!」
 ついてきなさい、と言いつつしなやかな筋肉が付いた細い腕を、ぐいぐいと彼女はひっぱる。日々の
戦いによって鍛えられた下半身のため、そう簡単にバランスは崩さないが、それでも歩きにくい。離し
てくれ、そう言おうとしたが、それは頭の言葉も出る前にかき消されてしまった。
「ほら、セネセネ急いで!!」

 ずるずる、と効果音が聞こえそうなほどひっぱる。
 あっという間についた花屋には、眩しいばかりの花が並んでいた。色取り取りとはこのことだ。セネ
ルはそう思い目を細めた。

「あ、これなんかどう?」
 彼女は差し出したのは、白い白い、まさに純白、といった感じの百合だった。
 けれど彼は口を開き、小さく何かを言おうとし―止まった。そのまま彼女が差し出した百合を壊れ物に
触れるように手に取り、少したってから寂しげな瞳で戻した。 
 そしてその隣にあったピンクのガーベラを手に取り、差し出した。

「えー?これ?確かにリッちゃんに合うかもしれないけど…。百合だって素敵なのに〜!!リッちゃん白
って感じだし…」
「いいから、これにしろ」
 静かな口調で制止するセネルを横目で見ながら、ノーマは口をとがらせた。そのあとにまた花を手に取る。

「じゃあ、こっちの白い…」
「これにしろ」

 うう〜と唸る。仕方ない。そう言うようにノーマはガーベラを店員に頼む。綺麗にラッピングし、ガルド
を払うとまたセネルを引っ張り出した。
 そしてしばらく歩いてから、
「ねえ、リッちゃんってピンクのガーベラ好きなの?」
と聞いた。
「…ああ」
 どこか遠くを見るように、セネルは返事を返す。

「ふーん」

 大分傾いた陽に照らされた影は細く長い。身長の二倍はゆうにあるだろう。


 フラッシュバックする景色。甦る残像。―今はどんなに探してもいない彼女の姿。

  唇を弱く噛み思った。
  白い花は誰にも贈らない。
 白い花は、彼女以外にはきっと似合わないのだから。











 

  


 蛍火を聞いていて。
 ステラには白い花がピッタリだと思います。