アッシュは、ルークが嫌いだ。
             自分から全て持っていったルークが嫌いだ。いっそその嫌悪は清々しいほどに真っ直
            ぐで、それを向けられているルークもそれを甘受しているところもあった。
             アッシュとしては、そんなルークの態度が嫌いだった。そんな態度を取られてしまっ
            ては、憎むという行為が馬鹿らしくなってしまう。


             アッシュはルークが嫌いだった。
             自分と、寸分も変わらぬ顔が、表情豊かに変わるのが嫌いだ。この上なく楽しそうに
            笑ったり、ひどく悲しそうな顔をするのが嫌いだ。
             人形のくせに、感情を出すのが腹立たしかった。


             アッシュはルークが嫌いなのだ。
             自分と何一つ変わらないはずなのに、自分と全く違うルークが嫌いなのだ。ルークは
            アッシュに一番近い位置にいて、そのくせ一番遠い位置にいる。全く持っての他人だと
            いう事実が嫌だった。
             自分から生まれたはずの、ルークが遠いことが憎かった。


             アッシュはルークが大嫌いなのだ。
             特に憎たらしくて仕方ないのは、ルークがヴァンの名前を呼ぶときだ。散々酷い目に
            遭わされて、ぼろぼろなはずなのに、それでも甘ったるい響きで「ヴァンせんせい」と
            呼ぶ。エメラルドの奥を、キラキラと輝かせて、呼ぶ。
             そのときの声と瞳は酷く綺麗だったけれど、アッシュはそれが大嫌いだった。首を絞
            めて瞳を抉ってしまいたいほど、大嫌いだった。 
  



            「…ヴァンせんせい、ヴァンせんせい」
             ルークは、ぽろぽろと涙を流していた。アッシュより幾分か色素の薄いエメラルドは
            濡れている。ルークの嗚咽と呼び声が、アッシュの聴覚を支配する。大嫌いな名を、大
             嫌いな人物が大嫌いな声色で呼ぶ。苛々した。
             ルークの白い首には、痛々しい痣が出来ている。それを見ると、満足そうにアッシュ
            は笑った。
            「師匠師匠って、この屑が」
             涙に触れる。指先が温い液体に包まれた。ルークはおびえたように、ひっと咽を鳴ら
            した。泣いている所為で赤みを帯びた頬から、瞬時に血の気が引く。頬の辺りに出来た
            痣と、唇の端から流れる血がやけに鮮やかだった。


            「そんなにあいつがいいかよ」
             髪の毛を掴んで、ほおをはじいた。ルークの頬は与えられた衝撃に素直に従う。口の
            端から、また血が流れた。それは顎まで伝う。

            「あっ、しゅ…」
            「俺の名を呼ぶな」
             また、はじいた。ルークの唇から、小さな悲鳴が上がる。その後すぐに、一層強い嗚
            咽が響いた。

             アッシュは大嫌いなのだ。 
             ルークがアッシュを呼ぶ瞬間は、ヴァンを呼ぶときのような、甘ったるさが少しも含
            まれていない。むしろ、含まれているのは遠慮がちなおそれだった。


            「おれはてめえが大嫌いだ」



             だからもう、呼ぶな。その名を。













 バイオレンスアシュルク。
 むしろ、ヴァン←ルク←アシュ。
 ほんのちょっとだけ色気を出そうか何て柄にもないことを考えましたが、結局バイオ
レンスにとどめておきました。
 アシュルクは愛憎。