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「…っ!」 夜中、ルークは跳び起きた。悪い夢だった。いや、悪い「記憶」だ。夢ではない。全てが確かにルークの身に起きたことであって、脳がそれを繰り返しただけだ。だからこそリアルであって、ルークにとって悪くて怖い。冷や汗で、背中がぐっしょりと冷たく濡れている。 目眩がした。吐き気がした。体全部が不快で、慌ててベッドから降りる。そのまま風呂場へと体を引きずった。 吐いても楽にはならなかった。戻せるものなんてもうルークの胃には残っていないのに、体は吐き気を訴え続ける。少し吐いてしまった胃液のせいで咽がちりちり痛む。それでも止まない。それとも、吐き出したいのは他のものなんだろうか。ルークは苦しい笑顔で自嘲した。 悪い記憶をなぞって、あの頃の自分を思い出す。あの頃の自分は箱庭か、絵本の中にいたとルークは思う。世界は狭く、そこから抜け出せない。広い世界はその外にあるのに。中にある、作られて描かれたものだけに見て、触れていた。そして知った気でいた。何も知らなかったのに。 無知は罪だ。 知らなかったから恐れ、信じて、騙され、殺した。無知の知なんて言葉はルークには恐ろしくて、無意味だ。無知であることを思い知ったのは遅すぎた。知の下にあるのは血溜まりで、その隣に横たわるのは血まみれの無知のルークだ。 知った。 けれど、取り戻せない。 だから無知の知なんてルークにはありえない。 知のかわりに失ったものは、もう取り戻せなくてどこまでも重くて、容赦なくルークを押し潰している。ぎゅうぎゅうと。 (俺は…) 苦しい。 今のルークは前のルークなんて大嫌いだ。知らないくせに強がって、のうのうと生きて。 そこはとっくにつくりものだったというのに。 大嫌いだ。 大嫌いだ。 (みんなだって、あんな俺は大嫌いだ) 耳の奥、ごうごうと音がする。目の前がちかちかする。頭がいつもの頭痛と違うもので痛む。 苦しい。 気持ち悪い。 自分が知らなかった、奪った。 だから仕方がないのだと思う。 あんな風に言われるのも、接されるのも、全て、一つも残さず。 仕方がないのだ。 (だから俺は傷ついちゃいけないんだ) 血だまりの中の自分の首を絞めた。 |