『………』
『…………!』

 何かが見える。何かが聞こえる。けれどそれはルークからとても遠い。とてもよく見えるのに。アッシュと繋がった、あのときみたいな感覚だ。

―誰かが喋っている。誰かが何かしている。何か、何か。

―遠い。遠すぎる。

 ふいに、何かがばらばらと砕けた。

―赤い。温い。なんだ、これ。なんだ、この、感触。

  ―…血だ。俺が、刺した。俺が、殺した。

 ざわざわとした。目に見えるものも耳に聞こえるものも遠いのに、ルークの体はそれだけをリアルなものとして受け止めた。肌を汚すのは生温い血だ。鼻腔に入り込むのは鉄の匂いだ。手に伝わるのは肉を貫いた感触だ。

『ひっ…!』
 声を上げる。否、上げたつもりだった。けれどルークの喉と唇は引きつるだけで声を上げない。からからに舌が乾いていた。唇をぱくぱく開け閉めするくらいしか、今のルークには出来ない。心臓がひどく煩かった。

―俺が、殺し、た?



―赤い。赤い。赤い。
―気持ちが悪い匂いがする。誰かの叫び声が聞こえる。何かが、がらがら崩れていく。気持ちが悪い。怖い。怖い。だって、これは、だって。


 耳に響く。視界に飛び込んでくる。全てが、遠いはずなのに、それだけを器用にルークに伝える。身震いした。

―せんせい。

 視線を投げる。困ったときも哀しいときも苦しいときも、ルークをいやしてくれたのは彼だった。彼の言葉が、ルークを導いた。彼が言ったから、全てを投げ出しても彼と行こうと思えた。
 彼は決して、ルークを傷つけたことがなかった。いつも優しかった。ルークをけなさなかった。馬鹿にしなかった。惨めにしなかった。

 いつもいつも、ルークの欲しいを満たしてくれた。


「劣化レプリカが」


 全部、壊れてしまった。



―ああ、みんなが俺を怒ってる。

 聞こえないのに、分かる。遠いのに、見える。だってそれらは一度、正しくルークに向けられてルークが受け取ったものなのだ。忘れられない。

―そうだ、そうだよ。俺は、大馬鹿だ。


 苦しいよ。
 哀しいよ。
 怖いよ。


 ねえせんせい、おれはあなたのいらないこだった?


 ゆいいつ、うまれたてのおれをあいしてくれたひと。




 まだ黒ルクは生誕致しません。今回は折角素敵なリクエストを頂いた黒ルクまでの過程をじわじわいきたいので。
 アニメ見たら余計に切なくなってしまいました。…大使さま!!