本当は、誰よりも。 僕たちは… エタノールや薬の匂いが充満してる。 もう少し、患者が良い気持ちで過ごせるようにすればいいのに。 そんなことがぼんやり頭を駆けめぐっている。 ステラには、毎日来るから、大丈夫だよ。とだけ言ってある。 そうじゃないと、彼女が壊れて消えそうな気がしたから。 彼女の中で、自分の存在が大きいモノだとは思っていないけど、 彼女という存在をここにとどめれるならそれでいいと思った。 ステラは今は寝てる。 つれてきたときは、傷だらけの体で暴れ回っていて、俺のことも知 らないと言っていたけど。 今は少しずつ思い出したのか、調子の良いときは話しかけたり手を 握ってきたりした。 でもその分、俺がステラと居るとき、俺が行かなきゃいけないとス テラは執拗にそれを拒むようになった。 「行っちゃやだ」 と。 「大丈夫だよ」 と言っても、 「やだやだ」 としか返してくれない。 仕方なく、一度も会わずに行ったこともあった。 後から聞いた話では、その日はステラは「シン、シン」と俺の名前を 呼びながら医務室から抜け出して俺を探しに行こうとしたこともあった らしい。 それ以来、ステラが寝ていても一度起こして、顔を見せてから行くよ うにしている。 それでも不安そうな顔をするから、「絶対、会いに来るから」とだけ は言ってあるけど。 ステラは寝ている。 今日は血色もいい。大丈夫そうでほっとした。 時間がないときは起こすけど、今日は心配なさそうだ。 そっと、ステラの頭を撫でてやる。 すると、少しだけステラが動いて、ゆっくりと目を開けた。 「シン…?」 「あ、起こしちゃった?ごめん、寝てていいから」 慌てて寝るよう促す。 必要以上起こすのはステラの健康に良くないと思ったから。 「ううん、いいの…」 「…そっか」 でもやっぱり悪い気がする。 そろそろ戻るか。 「ねえ、シン、また、行っちゃうの?」 「え?」 「シン、行っちゃうの、やだよ。全然、シンに、会えないし、シンいな いと、怖い」 「…ステラ…」 なんて言ってあげれば良いんだろう。不器用な自分が恨めしい。 「シンいないと、ステラ、寂しい。だから…」 「…大丈夫だよ。今日は何もないから、ステラの好きなだけ一緒にいて あげる」 それくらいしか言えなかった。ステラが、今にも泣きそうだったから。 「ほんと…?」 「うん、本当」 「よかった…」 これくらいしか、喜ばせることが見つからなかった。 それでも、どれくらい喜んでくれるのかなんて、俺にはわからなかった けど。 「ねえ、シン」 「ん?どうしたの」 ステラは、さっきと違って笑ってくれいてる。 それがすごく嬉しかった。 「シンの、いたところは、どんなとこ?」 「え…」 「ステラのね、いたとこ、あんまり、覚えてないの。だからね、シンのい たとこ、知りたいの」 ステラの言っている、「いたところ」とは、自分の住んでいたところの ことだろうか。 だとしたら…。 「俺はね、オーブっていうとこに最初はいたんだよ…」 「一人で?」 「…いたよ、父さんに、母さん。それに…妹が」 どうしても、思い出してしまう。 あの、あまりにも優しかった思い出と、思い出とはいいがたい忘れられ ない記憶。一瞬で、「幸せ」を奪っていった記憶。 今だに脳内をグルグルと駆け回っている。 フラッシュバックのように、焼き付けたフィルムのように俺の脳内を駆 けめぐる。思い出すまいと、思えば思うほどに。 イヤダイヤダイヤダ。 タスケテ。 奪ったオーブ。 信じていたのに。信じていたのに。 だから―俺は。 「シン…?泣いて、るの?」 「え…?」 泣いてはいない。けど。非道く泣きたかった。 それを彼女に悟られた。まるで、見えない涙が伝っているようだった。 「シンは、本当に、その場所、嫌い?」 「え…」 「シン、すごく悲しそう。でも本当に、嫌いなの?シンの、いたところ」 「ステラ、ね。ステラのいたところ、覚えてないけどね、でも、嫌い、 じゃないよ」 「シンは、やっぱり、嫌い…?」 違う。違う。違うんだ。 「俺は…!!!」 本当の本当は。 誰よりも。 あのばしょが…。 「俺は…本当は、オーブが、好きだったんだ…」 涙があふれた。 あまりにも、多く。かっこわるいほど。 ボロボロ。ボロボロ。 父さんに母さんに、マユ。 四人で暮らしていたことが、何より幸せだった。 最後まで、「オーブなら大丈夫だ」とギリギリまで信じて。 誰よりオーブが好きだった。 誰よりオーブを信じてた。 だから、許せなかった。 中立だと、言っていたのに。 なのに。 「シン…」 フワリ、と。 温かなモノにふいに顔が包まれた。 ステラの、手。 「ステ…ラ?」 「泣いても、いいよ。ステラが、いるから」 「ずうっとずうっと守ってあげるから」 「いつか、ステラも一緒に、見たいな。シンのいた、場所」 「うん…、うん…」 戻りたい 戻れない 戻ることが出来ないあのばしょ。 泣きながら、必死でもがいては、傷だらけで思い続けてる。 「約束、だよ」 「うん」 題名は川嶋さんの曲から拝借。 あの曲の一節からイメージがちょっとずつ。 シンはやっぱりオーブがすきなんだよお!!っとか思ってみる。