君と僕のいる場所に精一杯の愛情を 「菫ちゃん、動いちゃ駄目だよ」 カリカリカリとスケッチブックに鉛筆が走る音が聞こえる。 彼女はピクリと反応したが、彼に言われたとおり動かないよう頑張る。 「まだ…?」 「まだ」 誰もいない、ちょうど空を見る感じの体勢になっている彼女は、横目でチラリと彼を見た。スケッチ ブックに向かっていて、恐らく真剣であろう目はちょうど帽子に隠されている。 久しぶりにあったら、菫を見るなり睦月は、「菫ちゃん描いてもいい?」と彼女に聞いてきた。 別段断る理由もなかったので、快くオーケーはした。 だが、小一時間もこの状態なのだ。さすがに疲 れる。しかも、空を見ている体勢なので、首が痛い。つるかもしれない。 「…まだあ?」 「もうちょっと」 カリカリカリカリカリ。 手は高速で動き、一心不乱だ。彼女の何かを本能で感じ取り、それを紙に鉛筆ですべてぶつける。彼に とって、絵は、戦いでもあるのだ。癒しであり娯楽であるが。 「…‥」 何も言わない方が良いか、と必死で首をつらないように意識をそこに集中させた。 「できたああ!!」 ぷはっと息が吐き出される音がして、やっとかと彼女も体勢を崩した。 「見ても良い?」 「うん」 立ち上がってしゃがみ、彼のスケッチブックをのぞき込むと― 「綺麗…」 本当に自分だろうかと思うほど、綺麗な女性が描かれていた。女の子ではなく、艶やかな美しさをもった女 性であり、自分の未来の姿のようにも見える。 「本当?ありがとう!!」 嬉しそうに彼は笑い、おもむろにスケッチブックからそれを破った。 「はい、あげる」 「…本当に?」 「うん」 「…ありがとう」 本当に嬉しくて、言葉が自然にこぼれ落ちた。彼はその様子に驚きながらも、照れくさそうに笑い立ち上 がった。 「お腹減ったねー。ラーメン食べに行かない?菫ちゃん」 「うん。美味しいとこ、教えてあげる!!」 「やった!!」 「でも、猫舌じゃなかった?」 「平気平気」 今一緒にいる時間とか、嬉しくて仕方ないから。 今、君と僕のいる場所に、精一杯の愛情を。 睦スミ。 ほのぼのラヴラヴくらいがいいですこの二人。