躓くための小石 彼女の存在は非道く不安定そのもので、もろいものだと思う。 だって、いつも泣いているのだから。 俺の存在は非道く不安定そのもので、もろいものだと思う。 だって、いつも彼女が必要なのだから。 「泣くなよ…」 ヒンヤリとした空気の中でその声はよく通った。水野は膝を抱えて、顔をうずめ、わ ずかに絞り出すような声で泣いていた。 彼女の涙腺は何でこう弱いのだろう。何故彼女はそこまで泣くのだろう。彼女を構成 している水分の中で、涙はどのくらい消費されているのだろう。 俺の中で、解いたところで何の根本的解決にならない問題ばかりがよぎる。 泣いている理由は簡単だった。 非道いことを言った。俺が。 彼女を傷つけるように。突き放すように。 この気持ちが煩わしい。寒気がする。ならいっそ突き放してしまえ。何も誰も思わな きゃ良い。手に入らないならいっそ捨ててしまえ。 そう思ったのに。 なのに何故また俺は水野を追いかけた。 水野は俺がいくら傷つけても、俺の所為だとは言わない。水野が誰かの悪口を言うな んて聞いたことがない。自分に悪口を言われても、自分の所為だとふさぎ込む。 だからよけい罪悪感が増す。 そう言って、自分自身に言い訳する。 「泣くなよ…」 泣き声が止むことのないことは知っていた。水野は顔を上げない。 だけど。だけど。 「…ごめん」 顔がすっぽりと隠れているので表情なんてわからない。 ただ、覗いている頭を撫でた。 彼女の存在自体が、まわりの空気が、震えた。 「…ごめんな」 膝を抱え込んでいた腕が片方、俺の服の裾を掴んだ。そして、また絞り出すような 声が聞こえた。 「高嶺君は…悪くないよ…私こそ、ごめんね」 何故か、顔を上げた彼女は笑っていた。 目の端に涙をたっぷりと浮かべ、それでも綺麗に笑っていた。 いたたまれなくて、消え入りそうで、怖いから抱きしめることしかできなかった。 俺は、彼女を躓かせるための小石。 彼女は、俺を躓かせるための小石。